7. 顧客グループの特徴が交通機関利用者の特徴と異なる場合や情況が異なる場合に、運輸省の推定値を他のプログラムに直接適用するのは適切ではない。それにもかかわらず、こうした推定値を桁数として使用できることもある。特定の適用対象については、各省庁のエコノミストに相談すべきである。
8. 利用しやすさという要素は、明らかに消費者が金を払う気になるものである。しかし、道路と公共交通機関の現行料金体系の下では、利用者が時間節減に対する選好を示す機会は極めて少ない。しかし、利用者にとって時間節減を図るために公共交通料金を引き上げる場合は、時間節減とこの収入項目の二重計算を回避する必要がある。
9. さらに範囲を広げると、病院や刑事裁判所のような公共施設の立地をめぐる意思決定がある。この場合は、利用者にとっての利用しやすさが他の費用や便益と対比される要素となる。たとえば旅費を支払うとか公費で利用者を輸送する場合に政府にかかる費用のみを扱う事前評価では、こうした費用を部分的に捕らえることもできよう。しかし、一般国民が負担する費用も発生する見込みがあるので、それらも事前評価に導入する必要がある。
10. 利用費には時間のかかる旅行の費用も含まれる。実際上、個人にとっての旅行時間節減の価値は、その時間の代替用途に左右される。旅行よりもその時間の代替用途の方が満足度が高くても、旅費はたとえば快適さや信頼性と合わせて評価される。一方で、レジャーに費やされる時間は、便益とみなされる。
事故死及び非致命的傷害回避
11. 旅行時間節減の場合と同様に、死亡や傷害のリスク低減を価値評価する適切な開始点が個人の支払い意欲を示す尺度となる。この場合は、親戚や友人といった社会集団の他の構成員の価値評価や、個人の事故死防止に対する社会全体の価値観を十分導入できない。一般的に使用されている価値は、死亡や傷害のリスクが少しずつ増大することに対する個人の支払い意欲の推定値に基づいたものである。
12. 保健計画、安全計画、環境公害に関するほとんどの事前評価は、匿名の個人、つまり「統計上の人命」にとっての傷害や死亡のリスク変化に関するものである。事故死や重傷の確率変動は通常小さいが、リスクにさらされる人々はコミュニティの広い層に渡っている。したがって、名前のわかっている個人の「生命」というよりもむしろ匿名の個人にとって、小さなリスク変動に対して評価される価値である。しかし、「生命の価値」という用語は多くの文献で使用されている略語にすぎない。
13. 原則として、そうした生命の価値は顕示的選好から試算できる。その試算では、たとえばリスクの高い職種とリスクの低い職種の賃金格差、交通機関選択における価格と安全性のトレードオフ、発煙警報器のような安全装置に対する支払い意欲などが顕示的選好として使用される。しかし、事故死の確率に対する消費者の誤解といくつかの紛らわしい要因が重なるため、顕示的選好に基づく生命の価値の推定値は非常に不確定なものになる。
14. 高度の研究技法では、こうした紛らわしい要因の多くを回避、削減でき、当該死亡率を(たとえ理解できなくても)回答者に認識させることもできる。だが、そうした場合でも、人々の明示的支払い意欲と人々が実際に支払うものとの間には何らかのギャップが必ず生ずる。そのギャップの大きさも不確実である。