このためには、それぞれ異なる条件設定のもとで純現在価値がどれ程の範囲で変動するかを明らかにしなければならない。場合によっては、選択肢のランキングを変えることになるため、主要変量の値を正確に出すことが役に立つ。評価では、金銭的評価を行わなかった項目に関連のあるリスクと不確定要素も評価すべきである。
4.44 財政関係の文献では、リスクと不確定性を区別し、確率を正確に推定できる場合に「リスク」を使用し、推定できない場合に「不確定性」を使用することもある。実際の公共部門の事前評価は、常に、少なくとも確率に関しては暗黙の了解に基づいたものとすべきである。しかし、確率を明確に推計し、正式の計量的リスク分析に採用する場合もあれば、確率を正確に明記しない場合もある。実際には、後者の場合の方が一般的である。
4.45 リスクはいろいろな形態がある。最も一般的なリスクは、プロジェクト案の費用と便益の予測が楽観的であるというリスクであり、つまりコストや期間の超過、需要不足という偶発性を十分反映させないというリスクである。また、想定した価値に対してプロジェクトの費用と便益が、どれ程変動するかに付随する管理費もリスクに含まれる。
リスク移転
4.46 「民間部門の参入機会と公共部門の便益」("Private Opportunity, Public Benefit"英国大蔵省、1995年)では、民間資金導入に関連して、投資プロジェクトで起りうる最も重要なリスクを多数示している。こうしたリスクとしては、設計と建設、コミッショニングと運用、技術と陳腐化、規制と立法に対するリスクがある。民間資金導入案の事前評価では、こうしたリスクの配分が特に重要である。その点については、別添Dにおいてさらに詳細に検討する。
4.47 供給業者との契約上の取決めや保険契約により第三者にリスクを移転する方が費用効果が生ずる場合もある。しかし、こうしたリスク移転は、リスク管理の専門者に対してのみリスク移転を限るべきである。「政府の会計」("Government Accounting")の第27章には、保険に関する指針が記載されている。保険によって損失資産を埋合わせたとしても、普通の方法で評価することの重要性を損なうものではない。
感応度分析
4.48 中央政府のほとんどの事前評価において、リスク分析を最も適正に扱えるのは感応度分析である。この感応度分析では、一連の重要な不確定要素の変動可能範囲が、比較対象の各種選択肢の相対的価値にどのような影響を与えるかを調べる。通常、各種選択肢の評価は、その期待価値もしくは平均結果(つまりすべての推定結果の平均)に基づいて実施すべきである3。たとえば特定地域における過去の記録、プロジェクトの複雑さ、新技術の程度などに関して、当初に提示された数字が楽観的なものであったり、悲観的すぎるものであった場合は、それらを十分再検討すべきである。費用や便益の推定値に関して、たとえば10パーセントの任意変動があることを示すだけでは十分ではない。変動範囲をある程度示す必要があり、また、個々の要素のリスクがどの程度絡み合っているか、特定の利用者にどの程度重大な影響を及ぼすかを示す必要もある。非市場的影響にもリスクアセスメントを適用すべきである。
3 この点は、通常結果に「最も近い」ものに合せてプロジェクト予算案を作成するのを基本とすることとは異なる。