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旅行時間の短縮化、事故死防止、さらに環境や歴史的建物の利用価値、選択価値、存在価値といったものを価値評価する場合には、こうした方法が使用される。こうした技法を採用する場合は、必要に応じてエコノミストに相談した上で慎重に扱わなければならない。こうした技法に基づいて明示的価値を採用する場合、特に明示的選好に基づく方法で評価した価値を採用する場合は、通常そうした価値固有の不確定要素を考慮し、点推定ではなく範囲推定を行う方がよい。環境に関する価値評価技法については、「政策の評価と環境」("Policy Appraisal and the Environment"環境省、1991年)に記載されている。保健上の便益に関する価値評価については、「政策の評価と保健」("Policy Appraisal and Health"厚生省、1995年)に記載されている。

 

4.18 有害な影響の潜在的な最高価値や最低価値は、そうした影響防止対策にかかる余分なコストから推算できる。そうすれば、そうした影響が実際に余分なコストをかける価値のあるものか、その他の便益を失わせるものかどうかを判断することもできる。

 

4.19 こうした影響を金銭的価値に換算できない場合でも、あらゆる重要な影響を必ずリストに記入し、少なくともその影響度を質的に評価し、できれば騒音レベルや大気汚染レベルなどの測定も行うべきである。この種の影響については、別添Cにおいてさらに検討する。

 

広義の経済的影響

4.20 失業率低下や国際収支の黒字により大蔵省に入る税収や社会保障給付金の節減といった広義の経済的便益を提供することが、公共支出案に求められることもある。こうしたものは経済的便益や経済的費用とみなすべきではない。予定のプロジェクトが先へ進まなければ、そのプロジェクト向けの支出は通例、ほぼ同じようなマクロ経済的効果のある別の使途に使われることになる。マクロ経済的変量に対する直接的影響ではなく、ミクロ経済的影響という点から、特定プロジェクトに対する援助に関する十分な論議が必要になる。第4.13項で指摘したように、市場価格には機会費用が反映しているという条件設定が通常採用されるので、そうした影響に対する潜在価格を採用する必要はない。

 

4.21 しかし、国家経済に供給側の便益をもたらすプロジェクトもある。そうしたプロジェクトが供給面の制約を緩和して1部門や2部門以上に便益をもたらしたり、一般的用途を持つ新技術の開発を促進することもある。そうした影響を明確に判別すると共に、たとえば制約が存続するのはなぜか、技術の改良が特に求められているのに、国家の介入なしでは実現する見込みがないのはなぜかといった点も評価する必要がある。この種のプログラムやプロジェクトについては、別添Eにおいて検討する。

 

将来の価格変動

4.22 中央政府における事前評価の実務では、あらゆる費用と便益を実質価値で-つまり所定の一般物価レベルで-表わしている。実際上、その方法が一番簡単である。何しろ、「今日の」一般物価レベルで評価した費用と便益を事前評価すれば、多くの場合調整を行う必要がなく、しかも十分意味が通じる。原則として、あらゆる費用と便益に同一期日を採用する限り、何れの日の通り相場も計算の基準として採用できる。割引の基準期日としては、そうした期日を必ずしも採用する必要はないが、その方が便利である(第4.58項及び第4.59項を参照されたい)。公共支出に対する標準割引率は実質割引率で表わすので、実質的に評価した費用と便益とも整合する。

 

 

 

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