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第1章 総論*

 

1.1 研究開発の背景と目的

 

海氷は船舶の航行、漁業および鉱物探査の安全のために大変重要な気象情報である。北極圏周辺の国では、探査や航海のために古くから海氷の観測を実施し、海氷を監視し続けてきた。日本における組織的な海氷観測は、明治25年に網走、根室測候所で実施した沿岸からの観測に始まる。その後、1957年から航空機観測、1966年からESAA、1977年から「ひまわり」や流氷レーダーの利用が始まって、オホーツク海全域における海氷の分布や動きを解析できるようになった。

現場における海氷の観測は環境が劣悪であるため、非常な危険や困難を伴っている。航空機や砕氷船による観測は、航路上といった限られた海域に限定されるため、十分に広い海域の情報を取得することは困難である。このような条件下においては、衛星によるリモートセンシング観測が向いている。

気象衛星「ひまわり」や「NOAA」は赤外線及び可視光線を測定し、主として雲の状態や海面温度を観測する。気象衛星により観測されたデータは台風監視や毎日の天気予報に役立つ貴重な資料である。「ひまわり」は1.25kmの高い解像度を持ち、雲の無い晴れた時には貴重な海氷を観測することができる。しかし、雲がかかるとその下の海氷は観測不能になる。

一方、マイクロ波を利用したリモートセンシングの発展に伴い、雲の影響を受けずに対象物を測定する技術が実用化可能になってきた。欧州、米国及びカナダでは、数年前からERS1、DMSP、RADARSAT等をオペレーショナルな海氷業務へ導入している。そして、これらの衛星は海氷監視に重要な役割を果たしつつある。日本では衛星によるマイクロ波のリモートセンシングデータが得られるようになってからの経験は浅く、データの解析処理技術は十分に確立していない。

以上より本研究では、海外の海氷機関の現状を調査し、衛星により計測されたマイクロ波データから海氷パラメータを抽出する解析技術の開発を試みる。さらに、海氷予測の精度向上を目指して海氷モデルの開発を行う。これにより、より精度の良い海氷情報が期待でき、氷海における船舶の安全・効率的運航に役立てることができる。また、海氷状態の時空間変動を精度良く計測できることにより、気候シミュレーションモデルの高精度化が計られ、重要課題である気候変動研究に役立てることができる。

 

* 岡田弘三

 

 

 

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