一方、STサービスを必要としながらその利用対象者に認められない人々が多く存在する。そのような人のニーズを満たすものとして、サービスルート(定路線のバス・サービス)が導入されている。また、国は、STサービスの利用対象者にも、可能な範囲でサービスルートを利用することが推奨している(STサービスの費用負担抑制を企図)。
サービス・ルートは、高齢者や障害者だけでなく一般の人も利用でき、バスや鉄道のような大量輸送とSTサービス(ドア・ツー・ドア型)のような個別輸送の中間的なサービスと位置づけることができる。
2. イギリス
移動制約者への対策が交通分野で取り組みはじめたのは、1980年代初頭からであった。それ以前は、高齢者・障害者の福祉ということで進められ、自治体の福祉部局によるSTサービスの提供や、国からの重度障害者への移動手当て支給などの対策を講じていた。
福祉問題から交通問題へ転換が図られた理由は、「1981年国際障害者年」により交通機関の改善目標に国際的に取り組むことが掲げたことも大きな理由としてあげられるが、イギリス国内では1]高齢化の進展(移動制約者の増加)、2]高齢者、障害者政策の施設福祉から在宅福祉への転換(移動ニーズの増大)、3]交通事業者が移動制約者を「オフ・ピーク時の有力な潜在市場」と再認識等があり、交通問題と転換していった。
イギリスの移動制約者問題の基本的な考え方は、「交通」の問題とし、公共交通機関の充実かSTサービスの提供かといった交通手段の選択は、費用効果を考慮して決定する考え方である。これは、アメリカなどが移動制約者問題を「人権」の問題と捉え、健常者と同様の交通手段とすることを目指しているのに対し、イギリスでは比較的コストの低い改善措置で最大限の効果を得られる交通手段を充実させる考え方である。
(1) バス
ロンドンにおいては、ローフロアー・バス、ステイションリンク・バスおよびモビリテイ・バス等が運行されている。
ローフロアー・バスは、1994年から導入されており、床面高が28cmでニーリングをすると18cmまで床面が低くなる。導入にあたっては、あらゆる人の利便性向上を目指すことを最優先した結果、リフト付バスではなくローフロアー・バスを採用することとなった。(リフト付バスは、高額な上、保守管理に手間がかかり定時運行にも問題がある等のデメリットも勘案。)
ステイションリンク・バスは、ロンドン市内の地下鉄、国鉄主要駅および長距離バスターミナルを1時間間隔で環状運転する路線となっている。使用車両は、後面にリフトを装備したミニバスである。運賃は均一料金となっている。
モビリティ・バスは、移動制約者の利便性を図る目的で、1988年から住宅地とショッピング街を結ぶ路線で、週1〜2日に1往復運行されている。ショッピング街では、1時間半以上の滞在ができるような運行ダイヤとなっている。