(4) イルドフランス圏での移動制約者対策の今後
パリ市助役兼イルドフランス圏議会議員Vincenti氏によれば、移動制約者の交通としては、まず公共交通を重視するとし、理由として次の3点を指摘している。
1] 環境面とのつながりという点では、高齢者の多くが自動車免許の所有者であることに着目し、これまでのような公共交通機関である場合、身体的に困難になった高齢者はすべて自家用車利用ヘシフトし、環境の劣化を招くおそれがあるとしている。従って、この流れに歯止めをかけるためにも、公共交通の充実が必要であるとしている。
2] 高齢者の社会福祉という点では、公共交通利用の回避が高齢者の健康に悪影響を与えていることを重視している。すなわち、高齢者が特定施設に入所し至れり尽くせりの介助を受ける場合、一般人とともに生活をする場合に比べて、痴呆や身体虚弱が早く進行するという見方である。そこで、高齢者が寝たきりにならないためには、多くの人とコミュニケーションをとることが重要であり、自家用車といった個人交通ではなく、さまざまな人が利用する公共交通を利用して、街へ出て刺激を受けることが必要である。このように、公共交通のあり方は高齢者の生活に大きく影響を及ぼすものであり、公共交通を充実させていくことが非常に重要であるとしている。
3] 移動制約者対策の政治的意味:現状では、この助役の個人的関心から、イルドフランス圏での移動制約者対策を積極化させている。1997年にイルドフランス圏内の議員ヘアンケート調査を行ったところ、69%の議員が移動制約者に対する交通施策の内容を知らないという結果が出た。また、91.5%の議員が移動制約者に対する配慮は現在のところないと、認識していた。Vincenti氏の分析によれば、総じて地方自治体では、移動制約者に対する交通環境整備は財政負担が大きいと考えており、実際財政難であることから、余り手を出そうとしない模様である。一方、Vincenti氏は、市民の34%が何らかの意味で移動制約者であり、有力な有権者層であると考えている。したがって、有権者に政治的アピールを行っていく上でも、移動制約者対策は有意義であると考えている。