事例41 熊本県・水俣市(人口32,102人 面積162.61km2)
〜エコロジーに基づく村おこしにおける交流事業〜
1. 交流事業の契機
愛林館は、水俣市の山村部にある久木野地区(山村振興法の一部山村)の地域活性化の拠点として、平成4年に水俣市が建設した。館長を全国公募し、同年11月より活動を開始した。市が久木野地域に運営を委託し、委託料約1,100万円で運営を行っている。
各種交流事業はむらおこしの重要な要素として考えており、開館当初より、館長や企画グループ(ボランティアで愛林館の運営を支えている)の考えをもとに、積極的に開催している。
2. 交流事業の経過・概要
交流事業のひとつとして、久木野地区に古くから伝わる伝統を体験する教室(豆腐・こんにゃく・そば・うどん・炭焼き・かずら工芸)を年間5〜6回開催しており、各回40人程度の人がコンスタントに集まっている。そばは種蒔きから始めるコースもあり、棚田の農業を体験する場にもなっている。また、館内のみならず、世田谷区(東京都)で開催する機会もあった。
また、水俣市の範囲は水俣川の流域とぴったり重なっており、水についての関心が高い。水源を抱える久木野地区では、水源涵養と生物多様性の回復のために、市民参加で広葉樹の植林をする「水源の森づくり」を春に行っている。このため国有林の土地に80年の分収造林契約を結んでいる。夏は水源の森の下草刈りと20年生の桧林の除伐を行う合宿「働くアウトドア」で、山林労働を1週間きちんと体験する機会を提供している。
これらの事業のなかでは、生物多様性の重要性、人工林の手入れの重要性、目下除伐が最も必要な作業であることなどを必ず訴えており、山村や森林および棚田の果たす役割、そこに育まれた文化の理解を深めることを目標としている。短期的にはデカップリング政策導入のための世論形成を考えている。
3. 交流事業の効果
各種体験教室では、久木野住民が自らの文化や伝承の意義を感じる場所になっていることに意味がある。参加者には、消費するだけでなく自らの手で作り出す意味と、世間に流通している商品と本物の違いを実感してもらっている。
水源の森づくりについては、これまでに参加者は200人以上、6.2ha(14,000本)の植林を終えた。熊本市からの参加や繰り返しの参加も多く、また漁業者や水俣病患者の参加もあって、春の行事として根付きつつある。「働くアウトドア」にも県外からの参加者も多く、水源の森の成長を助けている。