事例27 奈良県・下北山村(人口1,438人 面積133.53km2)
〜山びこ留学制度〜
1. 交流事業の契機
奈良県の最南端にある下北山村は、奈良市より135km、三重県熊野市より35kmの地点にある。周囲には大峯山脈の高峰釈迦ケ岳(1,800m)をはじめ、孔雀岳(1,779m)、行仙岳(1,227m)などの山々が連なっている。全国有数の多雨地帯であり、年間降雨量が4,000mmを越すことも珍しくない。大台ケ原を源として村の中央を流れる北山川には、この豊かな水を利用した西日本最大の揚水式発電所の池原電力所がある。すり鉢の底に散在する戸数をかき集め約700戸、人口約1,400名の村である。
昭和30年代、当村はダムの工事などに伴って人口も増え、3つの小学校を抱えていた。しかし、ダム完成後は次第に子供の数が減少し、昭和60・61年には3小学校が統合され、現在の下北山小学校となった。そこで、小人数学級という教育環境を活性化するためにも、都会の子供たちと交流を図ろうと、昭和63年に「山びこ留学制度」が発足した。
2. 交流事業の経過口概要
留学児童は、小学校近くの旧保育所を改築した村立「山びこ寮」で生活しながら学校に通っており、春は田植え、夏は川遊びや昆虫採集、秋は稲刈りやイモ掘り、冬はモチつきなども体験している。また、里親―里子関係を取り入れるなど近隣の村民も協力し、村ぐるみで制度を支えてきた。
この事業は本年で11年を迎えるが、年毎の変遷は別表のようになっている。大阪府からの入寮者が多く、次いで県内となっている。
3. 交流事業の効果
都会の子供が親郷を離れて山村で寮生活をすることは、不安と寂しさが入り混じり、高校生ならまだしも、小学生からこの様な気持ちにさせることが果たして本人のプラスになるのかと疑問視することもある。しかし、入寮した子供たちは、関係者の心配をよそに地域の子供とすぐ友達になり、元気に学校へ通っている。
登校拒否の児童が何名か入寮しているが、寮では朝早く起き、喜んで登校している。友達もでき、自宅を訪問したり、地域の子供たちが山びこ寮を訪ねたりしている。また、都会の公害を理由に留学していた児童の家族が当村にIターンしてくるといった事例も生まれている。
経験領域の異なる都会っ子を山村に迎え入れ、公害のない豊かな自然の中で、長所短所を相補う相互交流を行い、併せて下北山村教育に新風を吹き込みたいというのが、「山びこ留学」導入の期待であり、願望である。留学児童と地域の子供たちの隔たりない活発な交流を見るにつけ、この所期の目的は達成できているのではないかと考えられる。