事例10 宮城県・丸森町(人口18,794人 面積273.34km2)
〜筆まつりの開催と緑筆(えんぴつ)による交流事業〜
1. 交流事業の契機
平成9年の4月と12月、東北の山間の集落からヒマラヤのブータン王国の教育庁に、日本全国から集まった筆記用具が贈られた。
過疎に悩むこの集落で、様々な提案がなされ、汗をかき地域を熱くし、交流の輪を国内外に広げた事業を紹介する。
(1) 地区の概要
宮城県丸森町筆甫(ひつぽ)地区は、宮城県の最南端に位置し、福島県に突き出た山間の集落である。面積は約77km2と広いが、人口はわずか1千人程度の東北地方の典型的な山里である。昔から里山とともに暮らし、伝承文化が受け継がれ、昭和初期には「遠野物語」で知られる民俗学者「柳田国男」氏らによって民俗調査がなされるなど、地区に伝わる伝説も数多い。筆甫という地名の出来については、旧筆甫村歌の歌詞に「政宗公が名づけたる、筆のはじめの誉れなり」とあるが、定かではない。
昔は林業で栄え、豊富な森林資源の恩恵を受けて活力がみなぎっていた筆甫村であったが、社会情勢の変化に伴い、昭和29年、部内の2町5ヶ村と合併し、新しい丸森町の1地区となった。その後は年々人口も減少し、合併当時は2千6百人を数えたが、現在では1千人そこそことなり、過疎化、高齢化社会を絵に描いたような深刻な状況に陥っている。
(2) 実行委員会の母体の発足
平成5年、地区内に衝撃が走った。前年度には9人生まれた子供の数が、この年はゼロだったためである。寄り合いの席で出るのはため息と「何とかしなければ」という言葉ばかりであった。その様な中で、地区内の小中学校の教師、父兄などが中心となり、病気の筆甫を元気にしたいと『ひっぽ・クリニック・さぁ来る』が結成された。そこから、地区のシンボル「筆神社」を建てて「筆まつり」を開催し、地区に活気を取り戻そう、という提案がなされた。