このような状況のなかで取られた方策の一つに集落の再編成があった。過疎化の進むなかでまがりなりにも生活機能を保持する集落へ、維持が見込めない集落の住民を移住させるというものである。しかしこの方法は、豪雪災害のような人力をこえる事情があった場合を除き、住民感情などにより、十分な成果をあげたとはいいがたい。
このことに関連して、ある県で構想されているという「集落整備モデル事業」なるものにふれておきたい。この構想は、拠点となる集落(市町村)にあらゆる公共投資を集中させて整備し、それにより周辺地域の活性化を図るというもので、具体的には、各市町村からプランを提出させ、コンペ方式で5ケ所を選び、そこには5年間で道路・下水道・医療など公共施設の整備を全面的に助成、そうすることで地域の自主性と創造性を促すのが目的であるという。この構想は、足腰の強い町村を拠点的につくることで共倒れを防ぐというものであろう。たしかに中山間地域における過疎地生き残り(サバイバル)作戦として有効と思われるが、この方法はくりかえし行われるものでなければ、恩恵を受けるまちとそうでないまちとの地域間格差の増大と固定という結果をもたらすだけで終ってしまうのではなかろうか。残れるものは残す、そうでないもの(その活性化は至難のわざであろう)は亡びてもやむを得ない-事態はそこまで来ているということなのであろうか。
事業の意図とはうらはらに、そんなことを思わせるものがある。
こんにち中山間地域の活性化-というより生活水準の維持という方がふさわしいが-のために取られている一般的な方法は、公共施設(し尿や廃棄物の処理、消防、福祉などの)を主に、その整備のためにいくつかの近隣市町村が応分の経費を負担し合うという、広域化によって解決する手法であろう。
こうしたハード面ではないが、近隣市町村が協力し合うという点では同じような広域的といえる手法で活性化を図る動きがある。上記の「県境サミット」がその代表的なケースであるが、ここで取り上げる島根県邑智郡7町村による「悠邑ふるさと構想」も、広域化の手法による中山間地域活性化事業の好事例といえよう。今回の調査の主眼は(II)のアンテナショップ事業の現状と課題を知ることにあるが、その事業主体であり、かつ受け皿となる邑智郡7町村自体での取り組みについても見ておく必要があり、(I)を設けた。
すなわちこの事業は、郡内7町村間の連繋をつよめることで郡内地域の活性化を図ることを第一義としてスタートしたが(I)、その後邑智郡7町村全体として都市に働きかけ、中山間地域の農村と都市との交流を図る、いわゆる「グリーン・ツーリズム」の展開を図っている点で注目されている。広島市内に設けたアンテナ・ショップを通じての諸活動(II)がそれである。