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「山陰中央新報」平成9年(1997)6月に連載された「そろばん大使同行記、横田町からタイへ」によれば、研修を受けたタイの教員は、それぞれの中学校で選択授業(週に一度)として教えているといい、その時点で73校、4,000人にのぼっている、とある。そのひろがりぶりが知られる。

 

4 課題と展望

 

こうして平成6年にはじまったそろばん交流事業は着実にひろがり、成果をあげて来ている。この間タイからは教育省のスタッフが視察団として横田町を来訪する一方(97年9月)、日本からは島根県知事、横田町長が訪タイして互いの理解を深め(98年2月)、またロイエット県にそろばん大使(中学生と一般人)を派遣する一方(98年8月)、タイからは女性4人が招かれ横田町その他で研修を受けている(98年)。なお平成10年からはタイ出身の女性、プサコーン・ホンヨックさんが、島根大学を卒業後、当町役場の職員として採用され、国際交流に当っている。そろばん事業についても教則本の翻訳に当るなど、両国の文化交流の橋わたしの役を果しているのは嬉しい限りである。もっとも横田町としては、これまでは行政サイドで対応して来たが、「海外交流協会」(1998年発足)と「そろばん交流委員会」(1992年発足)という二つの町民の組織と連繋しながら進め、町の人びとによる国際協力、国際貢献の意識をもり上げたいと考えている。望ましい方向であろう。

ところでこの事業のためには数多くのそろばんが必要であり、そのために横田町と日本民際交流センターが集めた中古品がタイへ送り出された。その後平成9年10月、町内に「タイへそろばんを送ろう実行委員会」がつくられ、2,000丁を集める計画で全国に呼びかけたところ、翌10年2月現在4,458丁、現金180万円が寄せられたという。この数字は当面の需要に十分応えられるものであろう。しかしこれからも分るように、用いられるそろばんは町内外の中古品であって新品ではない。換言すれば地場産業の活性化には間接的な関わりしかないということである。これは事業が教育に関わる援助事業であるだけに、先方に対価を求めることができないし、一方地場産業を活かすにしても行政がストレートな形で関われないという限界がある。それが国際協力である「そろばん交流事業」の本質であり、経済よりも意識の問題といってよいであろう。その点で地場産業の活性化に直ちにつながる事業とはならない悩みをかかえているといえるのではないか。「そろばん交流事業を町のプロジェクトとして明確に位置付ける必要がある」「島根県・横田町、そろばん交流委員会、関係NGOとの間で総合計画の策定が必要な時期となっているのではないか」(過疎地域問題調査会のアンケート調査表)といい、「町民のコンセンサスをどのように得ていくのか」が今後の活動のポイントだとする横田町の回答(同上)は、体験を通しての真摯な自己点検と評価できる一面、この表現では問題点がなおおもてに出されていないという感がある。

 

 

 

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