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さて(3) のそろばん。町ではこの構想に基づき、平成2年(1990)には前記「雲州そろばん伝統産業会館」を開設、世界のそろばんを収集展示したが、この際の縁で、中国逝江省の中華珠算博物館と姉妹提携を結ぶ一方、「ふるさと創生事業」の一環としてニュジーランドへ中学生を「そろばん大使」として毎年派遣することにしている。また、児童の2割が課外授業でそろばんを学んでいるというハンガリーからも子供15人が技術研修で来日し、当町を訪れている。このように見てくると平成2年(1990)が横田町にとって“そろばん元年”といえそうだ。しかもこの年には、そろばん資源の活用をより積極的に進める意図から全国アンケート調査を実施したが、日本民際交流センター代表、秋尾晃正氏から返って来た一枚の葉書が、当町のそろばん外交を決定づけることになった。日本民際交流センターはNGO(非政府組織)であり、いわゆる後進国への援助として、タイ国には児童に対する奨学金の支給を行っていた。その秋尾氏の返事にはタイ国の中学校教育にそろばんを導入すれば計算能力の引上げに役立つのではないかとの提案が記されていたのだった。横田町としては現地の事情に詳しい日本民際交流センターの協力を得られるなら、NGOに対するタイ側の信頼感もあり、事業は直接的であり効果的であろう、との判断から、この地域資源を生かした国際協力事業に乗り出すことになり、秋尾氏の斡旋でさっそく実現に向けて動き出している。それが平成6年(1994)のことで、同年12月、職員をタイの東北地方のロイエット県(バンコックから飛行機で1時間、さらに車で2時間)に派遣し、県の教育関係者にそろばんのもつ教育的効用を説明している。その結果タイ側がこれを受け入れることになったため、中学校でそろばんを教える教員の育成に当ることになった。これがいうところの「そろばん交流事業」のはじまりである。

この事業の特徴として町では、

(1) NGO(日本民際交流センター)と地方自治体(横田町)との共同事業であること。

(2) 小さな町の資源を活かした国際協力事業であること。

(3) 教育分野での国際協力であること。

の三点をあげており、(1) ではNGOの日本民際交流センターとの共同事業であることに安定感を求め、(2) では町のもつ独自の文化、伝統的な技術や人材を生かした国際協力なので町民の幅広い参加が得られるし、町民に誇りと自信を与えてくれる地域振興事業となる、とし、(3) では発展途上国の生活改善、地域おこし、自立に大きな役割を果すであろう、として、この事業の意味づけをしている(過疎地域問題調査会のアンケート調査表)。その後の経過はほぼこの趣旨に従って進められて来たといってよいであろう。

こうしてはじまったそろばん事業のなかで、横田町からは以後毎年(2,3度)、指導者を派遣しているが、町内のそろばん塾経営者である谷口律子さんは最初からこの事業に関わっており、現地の人びとから慕われている。

 

 

 

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