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磁気誘導ループと赤外線システムに助けられて

 

橋本祐子

 

私は50歳の頃、老人性難聴と診断されました。何も機器を使わないと、電話のベルの音、雨の音、消防自動車のサイレンの音も聞こえません。現在、私の聴力は平均して左耳66.5デシベル、右耳67.5デシベルです。両方の耳に補聴器を掛けています。そのため、静かな所での少人数の日常の会話にはさほど不自由は感じません。けれども、会議、講習会、講演会、音楽、映画、演劇の鑑賞には、補聴器だけでは対応できません。

今から6年前、難聴者協会に入会して初めて、定例会の会議に磁気誘導ループが使われていることを知りました。ループ線は、赤、黄、青等たくさんの電気の線を束ねたものでしたし、アンプもふれると壊れそうなものでした。それでも、補聴器の「T」スイッチを入れると小さくても、はっきりとした言葉が耳元で話しているように聞こえてきました。あのときの感動は今も忘れられません。

磁気ループは、講習会にも大活躍です。たった1日でしたが、難聴者のためのワープロ講習会で、ワープロに親しみを持つことができました。最近、難聴者のための手話講習会では、携帯用ボックス型のループアンプとコード、ワイヤレスアンプを繋ぐと簡単に準備できるようになり、学習を容易にしています。

近年、ホテルなどを会場とした県のイベントがたくさんあります。講演やパネルディスカッションなどには、大型の磁気ループアンプを持ち込みます。会場の音響装置と繋ぐととても良い音質で聞くことができます。今年度、特に印象に残ったのは、堀江謙一さんと中村征夫さんの講演でした。

3年前、演劇鑑賞団体「鳴門市民劇場」の人達と一緒に、市に要望をして、赤外線補聴システムが文化会館の大ホールにできました。高い天井に取り付けられた4つの送信機から赤外線が送られます。それを受信機で受けヘッドホーンとつないで聞きます。そのとき、私は補聴器を外しています。役者さんはほとんどマイクをつけないので、よく聞き取れるときも、そうでないときもありますが、講演のように、マイクが話し手の前にあるときは、殆ど聞き取ることができます。ただ残念なのは、バックに音楽のあるミュージカルなどは歌詞があまり聞き取れません。このホールで、毎年秋に、「名作映画劇場」があるのですが、「SHALL WE ダンス」をとても楽しく観ました。この映画は2回目ですが、今回は、赤外線のおかげで、言葉が殆ど分かったからだと思います。

テレビも音量を大きくしないで家族と一緒に見られるように、簡単な赤外線送信機と、受信装置の入ったヘッドホーンも利用しています。

耳の日のアピールに、県庁や放送局、新聞社を訪れました。6〜7人の話し合いには、簡単な磁気ループ(旅行バックに入る)を持っていきました。

それにしても、講演会場などに大きなアンプを持ち込み、磁気ループコードをその度ごとに張るのは大変です。西欧の福祉先進国では、国の法で磁気ループ等の設置が決められているとか聞きました。私の町の老人福祉センターにも、常時使えるループが欲しい。これから建てられる大きな公共物にはループを設置してほしい。障害者施設にはもちろんですが、他の建物にも、難聴者が喜んで入場出来るように……。私たちは行政に要望しています。

 

 

 

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