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私の聞き方の工夫

そこで、だったら、私はどうしているのか、どんな工夫をしているのか、という問題である。耳かけ型補聴器が二つ、マイクがつけられる箱型補聴器が二つ、それに望遠マイク、小型マイクなど使っているが、もとより、妙案などあろうはずがない。

私はこのところ、きっちり考えられなくなるのではないか、という不安に襲われている。記憶が急におかしくなっている。トシだけではないような気がする。この20年、大切なことは文字で確認するかたちになっている。それに、右耳がダメなので、左耳、片耳しか使っていない。素人考えだが、こういうことが影響しているのではないか、と心配だ。

で、私の場合、工夫と言えるようなものではないが、前述の事情とも関連し、こうしている。コミュニケーションが保障されている仲間内の一部の会合を別にしてだが、聞こえそうにないものは初めから諦めて聞かない。条件からみて、聞こえそうなものは全力を投入して聞く。あれも、これも、はムリである。平均的に、あっちでチョロリ、こっちでチョロリという人が多いけれど、結局、そういうかたちでは中途半端も良いところで、何の足しにもなっていないように見受けるからである。

専門家はどう考えているのか知らないが、脳への刺激、脳の働きということを考えると、ある程度、どこかできっちり聞かないとダメだ、と自分に暗示をかけているのである。これは周囲の難聴の仲間を見ていて、そう感じたのである。

 

補聴援助システムの必要性

そんな現状から、私は補聴器の効果を生かすためにも、補聴援助システムの活用が大切になっていると考える。磁気誘導ループ、赤外線補聴システム、FM、各種マイクなどである。

これらは運搬が大変なので、まず、公的施設に設置するという動き、運動になっている。

地域格差が大きく、かなり充実しはじめている地域と、まったく手つかずに近い状態の地域がある。この運動を進めるには、単に、行政や企業、団体など、どこかお金を出してくれるところを探すだけではなく、その機能と大切さを広く知ってもらう必要があろう。

私の住んでいる地域で、以前、磁気誘導ループの設置を働きかけたところ、しばらくして、やっと行政が必要性を認めた。しかし、任意の団体には管理は任されないと、福祉会館に設置し、会館の会議室を使用するとき、借用できることになった。

管理は当然、会館があたるが、そんなものに関心のある人は1人もおらず、要するに、空き部屋に放りこんでいるだけ。使いたいと借用して設置してみたら、故障していて、つかいものにならなかったということがあった。お役所のやりそうなことだが、福祉の遅れている地域ほど、お役所は官僚的だから、こういう側はこれからも起きるのではないか。こちら側のPR不足も手伝っての失敗談である。

 

ユーザーの意見という場合、補聴器であれば騒音カットの問題、子音の明瞭度を上げる問題とか、そういう性能に対する要望を期待する向きがあるかもしれないが、そんなことは聞かなくても承知なはずだ。補聴器のユーザーは家庭電化製品のそれとは、明らかに違う。こと補聴器に関していえば、ユーザーの主体性を抜きにしては機器が機能を発揮できないのである。一部の関係者に認識不足があるのではなかろうか。(産経新聞編集委員)

 

 

 

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