補聴援助システムを身近に
鳥取県 小島 茂樹
1. 障害者のニーズ
1)障害
孤島のロビンソン・クルーソーが難聴だったとしたら、障害なんてないだろう。あるとすれば、危険な獣が忍び寄る足音を聞き取ることができない点であろう。あるいは、心をなごませるはずの鳥のさえずりを聴取できない点であろう。それ以外には、他にたいして障害はない。
難聴それ自体は、障害ではない。障害は、人と人との関係の中で生じる。情報の伝達不足、または誤った情報の伝達、つまりコミュニケーションの不全、またはコミュニケーションの歪みである。つまり、難聴からくる障害は、個人において発生せず、社会の中で発生する。
2)環境整備
コミュニケーションは、一人だけでは成立しない。二人あるいは複数において成り立つ社会関係である。したがって、一方に難聴者がいるコミュニケーションは、他方が難聴者に伝わるように伝えないと、コミュニケーションが成立しない。
すなわち、難聴者への話し方である。たとえば、マスクをかけたり煙草をくわえたままだと、コミュニケーションが低下する。この場合、コミュニケーションが低下する要因は、話し手にあり、話し手の条件を変化させる(マスクや煙草をはずす)だけで、コミュニケーションは改善する。
音環境もコミュニケーションに影響する。たとえば、開けはなった窓からバスやトラックが走行する音や警笛が入りこむ部屋ではコミュニケーションが低下し、静かな部屋ではコミュニケーションが改善される。
難聴者をとりまく人的、物理的環境が整えられると、難聴者における障害、すなわちバリアは軽減される。
2. バリアフリー
1)バリアフリー
環境が整えば、バリアがなくなる。しかし、現実には、バリアフリー化された公的施設等も、一部にはあるにせよ、多くの場合、バリアの除去は難聴者個人の、あるいは難聴者集団の努力に委ねられている。
バリアフリーの方法は、大きく分けると、二つある。
一つは、聴覚という感覚の補償である。難聴は、聞こえない、聞こえにくい状態だから、音声を拡大して耳に届けることで、いくらか聞こえが改善する。疲れた時に強壮剤を飲むのと同じ理屈である。あるいは、騒音の中で、必要でない雑音を切り捨て、聞き取りたい音声を取り出す。こちらは、病人がお粥を食べるように、必要な音声を純化して聞き取るシステムと言えようか。
もう一つは、「押して駄目なら引いてみな」で、耳の代わりに目で聞く。場合によっては、