補うことの効用
大阪市中途失聴・難聴者協会
宇田 二三子
大阪で「人工内耳フォーラム」を開催し、そのプログラムの中で、言語聴覚士(ST)の言葉を、口元を見ず、人工内耳埋め込み後1年3カ月の私が反復するという実演をやりました。
ST 「観光という言葉が」
私 「観光という言葉が」
ST 「一般的に用いられるようなったのは」
私 「一般的に用いられるようになったのは」
長文でも、ほぼ満点の聞き取りに、参加者から大きな感嘆の声が上がりました。「宇田さんの聞こえはすばらしい。人工内耳の威力を見た思いだ」と、同席していた耳鼻科医や人工内耳販売会社の人までが、私の聞こえを賞賛してくれました。でも、これはすごいことではないのです。私は聞き取りを補うために磁気ループを使用していました。この聞こえの良さは、磁気ループのお陰だったのです。
全国の中途失聴・難聴者協会の例会場では、毎回、磁気ループを設置されていると思います。人工内耳を埋め込む前の私は「磁気ループ?そんなのあったって、なくったって一緒やもん」と磁気ループに興味のかけらもありませんでした。100dbを越えた私の耳は、補聴器のTコイルを利用して磁気ループを使ってもその効果はほとんど得られません。ところが、人工内耳で補聴援助システムを使用すると一段と聞こえが鮮明になるとわかりました。他の音に煩わされず、マイクを通した聞きたい音のみ、耳に届きます。聴覚障害者にとって「自分の耳で開いて理解する」という「夢」が、夢でなく現実のものと実感できたのです。
さあ、それからです。あらゆる場所に、補聴援助システムを使って欲しくてたまりません。障害者を対象の催し物、例えば、芝居、ピアノコンサート、オーケストラ、能、狂言、映画、寄席などの案内や招待があります。そんな時、積極的に補聴援助システムの設置を主催者や劇場関係者に働きかけ、広い会場でも安定した出力の赤外線補聴システム「アシストホーン」をボランティア設置していただきました。特定の催しばかりでしたが、多数の聴覚障害者が、基本的人権の「文化的な生活の保障」を享受できたと思います。営利企業の劇場に「これからの高齢化社会におじいさん、おばあさんを抜きにしての営業では潰れますよ。こうしたシステムに投資するべきです」と、半ば脅しながら(?)システムの常設をお願いしています。
公共施設での連続講座にも参加し、磁気ループを使ってもらいました。要約筆記通訳なしで、健聴者と一緒に受講できるなんて、失聴した当時は考えられないことでした。
対市福祉交渉時に「公共の施設には、必ず補聴援助システム設置を!」と要望する声に、熱がこもります。人工内耳装用者だけでなく、補聴器である程度の言葉の聞き取り可能者にとっても、そうしたシステムの恩恵は大きいはずです。
今、私が一番欲しいものは、安価で、ハンドバックに入れて持ち歩け、どこでも簡単に使える補聴援助システムです。開発が待ち望まれます。