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このような状況で抑うつ状態を呈することは一般的なことであるが、C男の場合は病前性格の特徴から、よりそのようになり易かったのかも知れない。

C男の聴力回復手段としての人工内耳植え込み術へのこだわりは、十分に理解できることではあるが、C男の中でこの手術に対する認識がどのようであるかを把握することは、大変重要なことのように思われる。

C男の場合、一応障害が固定して、つまり、回復しないと診断されて身体障害者手帳が交付されており、人工内耳の適応を決める際にひとつの目安になると思われる。しかし、医学的に回復しないとされても、本人は必ずしも心理的に「回復の断念」をすませているとは限らない。つまり、新たな聴力損失分の喪の仕事と障害受容ができていないことも考えられるが、実際にC男が抑うつ状態にあったことを考えれば、その可能性は高い。

人工内耳の手術は、音が甦るという意味ではより治療的ではあるが、聴覚障害が固定した後の対処手段という意味では、リハビリテーションの一環とも言える。

C男が当科を受診した時の人工内耳手術に対する見方は前者に近かったと思われるが、治療的なら以前聞こえていた状態の延長線上で人工内耳手術の成果が評価される。つまり、健聴時代と比べてどのようか、と考えてしまうであろう。しかし、今までの人工内耳装用者の多くを占めると思われる後者の場合は、聴覚障害の回復をいったん断念しているので、人工内耳の成果を健聴時のそれと短縮的に比較することは少ないのではないかと思われる。

従って、両者では音入れ直後の反応や、その後のリハビリテーションに対する姿勢も若干異なってくるのではないかとも思われる。今後は後者の事例が増えてくるように思われ、人工内耳手術の発展のためには、精神科医や心理士等の参画も必要になるように思われる。

 

5. おわりに

 

難聴者や中途失聴者が聴覚障害といかにうまく付き合ってゆくか、という課題は生涯つきまとうものであり、ひとりの聴覚障害者の人生のいろいろな局面において、メンタルケアが必要となってくると思われる。

そう考えると、難聴・中途失聴者のメンタルケアの実践には多大なエネルギーが必要だとも思われてくるが、本邦では未だ端緒についたばかりとの印象であり、今後、地道にひとつひとつ経験を積み重ねてゆくことが、当面の課題のように思われる。

 

 

 

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