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学校を出てすぐに一人前に働ける専門職というものはないでしょうが、聴覚障害に関して言うと専門家として育っための職場が少ないと言う現状があり、大変危惧されることです。

二つ目は、言語聴覚士が病院で働くことを意図して、カリキュラムのなかに医療分野の学科は多いのですが、それに比較して心理学やケースワークに関する分野が少ないことです。例えば、45歳の男性が突発性難聴になり治療を行ったが中度難聴が残ったとしましょう。この人を単に“患者”としか見ていないのなら、治療も終わったわけですし、後は補聴器の適合をするのが関の山でしょう。しかし“生活者”としてこの人を見直してみると、「一家の大黒柱として職業生活は大丈夫なのだろうか」などの専門的な関わりの必要性が浮かび上がってきます。“患者”としてだけではなく“生活者”としての視点から一人ひとりの困難を見いだすことのできる言語聴覚士を養成する必要があります。

難聴者と発症後比較的早い時期に接するのは耳鼻科の医師と補聴器の業者です。耳鼻科のなかには自分の病院で補聴器の適合まで行い、家族指導も含めた優れた実践を行っている病院もあります。また、日本耳鼻咽喉学会の福祉部会では補聴器専門医の組織化を図る等の努力もされています。補聴器業者も補聴器従事者の認定制度を確立し、ディーラの資質の向上に努めています。これらの実践が広がることが、難聴者のリハビリテーションに寄与する部分は非常に大きいと思います。ただ現状では、難聴者が病院で治療の対象ではないと判断されたとき、補聴器をすすめられて、それだけで終了と言うことが少なくないようです。

充分に相談機関が育っているわけではないので、医師にしても業者にしても、難聴者の困難解消のためにどのような手だてを取ればよいかスッキリした答えが見つからないことが多いと思います。しかし、比較的発症から近い時期に接する機会の多い専門家が、最低限その地域で活用できる資源(機関や他の専門家など)の情報を持ち、適切に情報を提供していく必要があると思います。

言語聴覚士にしても、耳鼻科医、補聴器業者にしても“普通の生活者”として難聴者を見ることを大切にしてほしいと思います。そして、一人ひとりが本当に望んでいることを尊重してほしいと思います。そのことは、難聴者の抱える困難を明らかにし、これまでは難聴者一人で抱え込まなければならなかった問題を共有していくことにつながるからです。そして、そこから各地域に根ざした難聴者を支えるネットワーク(人や機関のつながり)が生まれ広がっていけばと願います。

 

参考文献

1)聴覚言語障害科(1981)中途失聴者に対するコミュニケーション指導。東京都心身障害者福祉センター研究報告集.12.55-74.

2)濱田豊彦、三輪レイ子、塚田賢信(1995)はじめて対策援助を求める難聴者-東京都心身障害者福祉センター来所者実態から-.日本音響学会聴覚研究委員会資料.H-95-2.

3)耳の不自由な人たちが感じている「朝起きてから夜寝るまでの不便さ調査」委員会(1996)耳の不自由な人たちが感じている朝起きてから夜寝るまでの不便さ調査アンケート調査報告書.聴力障害者情報文化センター.

4)読話教材制作監修委員会(1996)豊かなコミュニケーションをに向けて-読話のためのビデオテキスト-.全日本難聴者・中途失聴者団体連合会.

 

 

 

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