日本財団 図書館


輩がいたり、聴覚障害者にとって便利な機器や制度の情報があったりするわけです。そしてなによりも、“難聴者は自分だけで周囲は聞こえる人ばかり”という日頃の生活環境から抜け出て、聞こえない者同士という共感と安堵感がそこにはあったのではないでしょうか。「ほっとできる場所」を得ることが、引きこもりを打破する大きな鍵の一つになることは間違いないようです。

 

真の障害受容を支えるネットワーク

先述のアンケートにもどりますが、真に障害を受容することの難しさを表わす結果もでています。「あなたの家に家族のお客様がみえたときは、コミュニケーションにどのような工夫をしてますか」という質問に対し、28名から回答が得られました。しかし、そこには具体的な工夫を書いたものは少なく、「自分の客以外の時は退散する」とか「外出する」「一番いやな時間」といった拒否的回答が最も多く、「挨拶だけ」とか「お茶や食事の準備をして人前に出ない」といった消極的回答と合わせると64.1%が拒否的であったり消極的で、何らかの「工夫をしている(31.6%)」を圧倒していました(図3)。既に難聴になって平均して17年以上が過ぎている難聴者のグループからの回答ということに、この結果の持つ意味の重さを感じてしまいます。

 

図3 来客時の対応

088-1.gif

 

人生には、就労、結婚、出産、育児、昇格、退職などといったライフステージというものがあります。それぞれのステージには異なる困難があり、難聴者は一時的にせよそのハードルを越えるのに苦労します。なかには、そのハードルが越えられず混乱してしまう場合もあります。障害受容を真の意味で支えていくためには発症初期はもちろんですが、一生涯のあらゆるステージにおいて安心して相談に行ける機関が必要です。

一部の大都市圏を除いて、成人難聴者の専門相談を行っている機関は、ほとんどないのが現状です。平成10年度から言語聴覚士(STと呼ばれることが多い)が国家資格化され、このことを契機に養成校も増えています。難聴者にサービスを提供する専門職として、言語聴覚士の活躍におおいに期待したいところですが、現在のところ彼らの多くは脳血管障害などの後遺症で起こる失語症や運動性構音障害、子どもの言語発達などを専門にする人であり、聴覚障害を専門に活躍している人はごく僅かでしかありません。言語聴覚士の数が増え、病院の耳鼻科や福祉センター等で難聴相談を中心に働く人が増えてくればと期待しています。

ただし、養成過程のカリキュラムを見ると二つ気にかかることがあります。一つ目は扱う領域が広くて聴覚障害に対する事門性がどこまで養成されるかという点です。資格は持っていても、専門職としての技量を身につけていない可能性があるということです。どの分野にせよ、

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION