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難聴者・中途失聴者のメンタルケア

 

琵琶湖病院・精神科

藤田 保

 

1. はじめに

 

補聴器、人工内耳、稀聴援助システムなど、昨今の補聴機器の開発や改良とその効果には眼を瞠るものがあるが、これらの高度な最新機器を活用するほどに、難聴者や中途失聴者にとって、リハビリテーションをいかに巧く進めるかということが、重要かつ一生の課題となってくる。

およそどのような障害のリハビリテーションを進める場合でも、より有効な成果をもたらすには、それを行う障害者の心の安定が得られることが前提となる。このことは「障害の受容」をキーワードにメンタルケアが重視され、最近は病院などのリハビリテーション部門や先端医療などの分野に、精神科医や心理士がスタッフの一員として加わるようになっており、一方、精神医療の側でも「リエゾン(連携)精神医学」の考えから、リハビリテーションなど他科からの要請に積極的に応じていることからも、その重要性が窺える。

とくに、コミュニケーション、さらに言えば人間関係などの面に大きな影響を及ぼすことになる聴覚障害のリハビリテーションにおいては、社会や家庭生活なども視野に入れて生涯を見据えた、全人的包括的な見地でのメンタルケアが必要となってくる。

聴覚障害の最大唯一のハンディキャップは心理学的なものである、と言い切る研究者も居り、補聴器のフィッティングや聴能訓練から人工内耳植え込み手術などに携わる専門家にも、聴覚障害者の心理面の理解やメンタルケアの知識や技術の習得と、必要に応じた実践が要求されるようになっている。

 

2. 聴覚障害者の精神心理的問題の考え方

 

1)聴覚障害の発生年齢から―聴覚欠損か聴覚剥奪か

聴覚障害者をめぐる問題や福祉などを考えるとき、聴覚障害の発生年齢と程度が基本的に重要であるが、精神心理面での問題を考える際も同様である。実際には、このふたつの要因に加え、聴覚障害の推移や経過、生来の気質、家庭・職場・地域などの環境要因などが複雑に絡んでくる。

この見地から難聴者・中途失聴者を見ると、聴覚障害の発生年齢と程度の組み合わせだけでも、実に多くのヴァリエーションがあるわけで、そのニーズや精神心理的問題や課題も複雑多岐に及ぶものである。例えば、発生年齢で言えば、胎生期から老年期まで、程度で言えば、何とか電話ができる者から失聴者まで居るわけで、それぞれのライフサイクルの位置や環境によって、抱える課題やニーズも異なってくると考えられる。

従って、難聴者・中途失聴者を一概にして、その精神心理的問題を論じることは極めて困難であるが、精神心理面への影響という観点から考えると、聴覚障害が人生の早期から存在する場合と、成長した後に生じた場合とに分けて考えることが有用である。

前者は「聴覚欠損」がキーワードであり、聴覚障害を持ちながら育っという、精神を含む人間発達の問題となってくるが、後者は「聴覚剥奪」ということになり、一度完成した聴覚

 

 

 

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