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最近は人工内耳適用後に聴能訓練(聴覚スキル訓練)が再び用いられるようになった。従来の議論に基づいて、リハビリテーション手法の適用について整理すると、先天性難聴児および乳幼児期の指導では主に聴覚学習を適用し、言語獲得後に失聴した難聴児およそ幼児期後期、学童・成人期には聴能訓練を適用するとしている立場が妥当と考えられる。今後、人工内耳・補聴器の音処理の性能の改善につれて議論が継続される必要がある。

(3)聴取力の差に関連する要因

幼児期に聴力が正常で大人になって突然失聴した場合に、幼児期に学習した発音は大方は忘れずに使える。これは幼児期は大脳の可塑性が高く、音声言語学習に大変有利な時期であることを示し、幼児期は言語学習の「臨界期」または「適時期」と考えられている。これまでの聴覚障害児指導の経験から、とくに聴覚利用と音声の習得について、0〜4歳の幼児期には学習しやすく、その後も忘れないという意味でこの時期の指導を徹底して行うことが重要であると考えられる。

また、難聴児の側の要因としては難聴の程度や聴力型、聴覚的記号操作能力など個人差があるが、早期診断と早期の補聴器使用、補聴器の調整・管理などのリハビリテーションの対応の適確さも大きく関与する。さらに環境要因として、日常的に聴覚音声を必要とする生活の場と、聴覚刺激の量と質は大きな比重を持つので聴児との積極的な活動の機会そ用意したい。これらの複数の要因が相互に複雑に関与していることがわかる。

ところで、高度難聴児では会話の聴取時には、読話と併せると実用性が増すことが知られている。難聴の学童について物語の理解に使うモダリティーを調べる(図6)と、聴覚のみの聞き取りの成績は聴力程度による差が大きいが、聴力90dBをこえると聴覚に読言を併用する効果が高まる事がわかる。聴力100dB以上の難聴児では、聴覚による理解に限界があるが、読話の能力の向上とともに併用の効果は増す。このことから、高度難聴児では読話併用時の聴取力の改善を視野に入れた聴覚活用の検討が必要といえる。

 

図6 追唱検査による物語理解のモダリティー

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このようなリハビリテーションシステムで早期から補聴器を装用し、聴覚学習を続けた幼児が小学校就学時にはどのような状況に至るか、各種検査の結果(表7)からおよその基準を考えてみたい。対象児は全て言語指導に通院しながら保育園・幼稚園に通い、聴覚音声でのコミュニケーションが日常的に徹底して用いられていた。すなわち、表から読みとると語音の聴取能力と音声の明瞭度については、聴力程度の差によって、難聴が高度になれば残存する障害も大きい。しかし、言語能力については差が少なく、高度難聴児についても学年平均相当の学習が可能であったことを示している。

 

 

 

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