テストでも全ての患児が聴覚言語の明らかな発達を示したと報告しています。これらの患児は38名中37名が普通学校に進み、聴覚言語のみでコミュニケーションを行っており、全て厳格な聴覚・口話法の訓練を受けているとの事です。
また、人工内耳を使用している幼児のビデオによる行動記録の分析から、人工内耳術後1年の段階で聴覚と音声を主体とするコミュニケーションを行っていた患児の方が、その後3年の段階でみても聴覚による言語認知の成績が良いとの報告もあります。これらは人工内耳が聴覚言語の習得に役立つとともに、聴覚を主体とするリハビリテーションがよりよい術後の語音聴取成績をもたらす事を示しています。しかしここで重要なのは、難聴児のリハビリテーションで手話などの視覚的手段をとりいれるか、あるいは聴覚・口話を唯一のコミュニケーションモードとするかは、個人の人生観や、健聴者の社会と聴覚障害者との関係にまで立ち入る難しい問題を含んでいるという事で、語音聴取成績だけではなかなか判断ができません。
(2)自験例の紹介
以下に我々が人工内耳手術を行った小児16名(手術時平均年齢:2歳〜12歳、平均5.6歳)の結果を紹介します。先天性の高度難聴が8名、後天性難聴が8名で、術前は、髄膜炎で両側聾となった一人をのぞいた全例で一定期間(10カ月〜8年)補聴器の装用が行われていますが、これによっても全く、あるいは殆どコトバの発達が見られていないために手術となっています。
これらの小児のうち、補聴器で音感がえられていた子どもの平均補聴器装用闘値は500Hzが67dB、1kHzが67dB、2kHzが75dB、4kHzが87dBでした。一方、術後は全ての側で音感が得られ、人工内耳の装用関値は500Hzが平均44dB、1kHzが42dB、2kHzが41dB、4kHzが44dBであり、残存聴力があった側の平均に比べても人工内耳によって25dB程度の改善がえられています。とくに、高度難聴児の補聴器装用では4kHz以上の高音域で殆ど入力が得られない場合が多いのですが、人工内耳では全音域で均等な闘値がえられます。術後の聴覚言語機能の評価には患児の発達に応じて、通常の話音弁別検査か行動観察に基づくIT-MAISを使用しました。
ここでは、7歳以上の側では母音と単音節子音の弁別検査、それ以下の年齢ではIT-MAISの結果を示します。術前に語音聴力検査が可能であった症例の術後の話音弁別成績は術後1年で言語習得後失聴児の母音が平均93%、子音が平均65%一方、言語習得前失聴児では母音が平均76%、子音が平均11%と、やはり言語習得後失聴児の成績が良好でした。IT-MAISのスコアは(図8)、術前は平均10%と低値でしたが、言語習得中失聴児の1例では術後、急速にスコアが上昇し、6カ月で100%となりました。言語習得中央聴児の他の1名と言語習得前失聴児ではスコアの上昇は緩やかですが、術後3カ月ころから徐々に明らかな聴性行動の向上がみられ、以後6カ月で37%、1年で83%、2年で100%と、着実な上昇が確認されています。