このような指導は医師だけでは不十分で、言語聴覚士、聾学校、通園施設、小中学校の教員などが緊密に連携し、患児とその家族を支援する医療と教育の円滑な協同システムを確立することが必要です。そのためには、それぞれの関係者間できめ細かくやりとりをし、できれば両者が直接会って話し合いの場をもち、患児に対する意見の統一をはかる事が望まれます。
ここで大きな役割を果たすのが言語聴覚士です。これについても詳しくは本書の廣田先生の「言語聴覚士の役割」の項を参照して下さい。この様な新しい職種が、その専門的知識と経験によって小児人工内耳の医療と教育を機能的に連結し、高度難聴児とその親の聴覚言語獲得を支援する態勢の中核になる事が期待されます。またこのような教育支援態勢なくして、ただ手術を行うだけでは小児人工内耳という医療は決して成立しないという事を、我々は充分認識しておかねばなりません。
3)術後の経過
実際の手術手技と小児における注意点については、本書では省略します。くわしくは、最後に示した参考図書をご覧ください。音入れとマッピング、リハビリテーションについては、この後の山口先生の「マッピング」の項を参照してください。また、小児人工内耳の(リ)ハビリテーションは、基本的に補聴器を使用している難聴児と同じですので、これについては廣田先生の担当の項をご覧下さい。ここでは、小児の人工内耳でどのような効果が得られるのかについて、我々の成績も含めて概説します。
人工的な言語音の符号化によって人が言語を習得するということは、人類がこれまで経験した事のない事態であり、将来、我々の社会の中で人工内耳がどのように位置づけられるかも未だ定かではありません。しかし、いろいろな問題や限界を考慮したとしても、少なくとも現在までの人工内耳の成果は非常に勇気づけられるものであり、高度難聴児は人工内耳によって着実に言語を習得して行くことが確かめられつつあります。
(1)外国および日本の諸施設における結果
言語習得後失聴児の方が、先天性あるいは言語習得前失聴児より人工内耳手術後のコトパの認知が良好であることはよく知られていますが、言語習得前失聴児でも人工内耳によって確実な聴覚言語の発達が得らることが確かめられています。インディアナ大学のミヤモト教授は人工内耳を使用する事で高度難聴を持つ小児の言語は3〜5年かけて着実に発達し、90〜100dBの難聴で補聴器をつかっている小児とほぼ同等の言語聴取成績が得られると報告しています。これらの小児の言語発達の速度は100dB以上の難聴で補聴器を使用している子供より早く、90〜100dBの難聴がある補聴器使用児と同等です。日本でも重度難聴小児において、人工内耳により聴覚言語の確かな発達が得られることがいくつかの施設から報告されています。
また、米国からは高度難聴児で同程度の残存聴力があり、術前に僅かに稀聴効果があったグループと全くなかったグループとで人工内耳の聴覚言語発達におよぼす効果を比較した所、着千補聴効果があったグループの方が術後1年の時点での語音認知が良好であったとの報告が見られます。これは、術前に僅かでも補聴器によって言語音が入っていた方が術後の人工内耳からの音信号入力の認知が良くなる事を示しています。
ニューヨークのウオルツマン教授らは5歳以下で人工内耳手術を受けた先天性の高度難聴児38名における術後5年間の語音認知能力の発達を複数の検査法で評価し、いずれの