補聴器装用効果の判定には少なくとも数カ月から半年の観察期間を要します。補聴器を適切に使用し、かつ十分な教育指導を受けているにも関わらずこれらの指標が停滞している場合に、人工内耳の適応としています。観察期間については明確な基準はありませんが、幼児の人工内耳では一般に術後3カ月くらいで明らかなスコアの上昇が観察されますので、補聴器装用開始後、半年程度の観察で手術適応の判断は充分可能と考えます。ただし、髄膜炎による失聴では迅速に適応を決定しないと、内耳の骨化によって人工内耳の手術すら難しくなるおそれがあります。
術前の補聴器の装用と聴覚言語獲得のための指導は、たとえ後に人工内耳手術の適応となったとしても大変役立ちます。むしろ適切な補聴器装用の練習は人工内耳のリハビリテーションのために必須といえるでしょう。補聴器の常時装用に手間取った子どもは、人工内耳術後の装着でもトラブルが多いようです。したがって補聴器装用効果判定のための期間は、単に人工内耳の適否決定のためだけでなく、術後のリハビリテーションの観点からもとても大切なのです。
(4)その他必要な検査
小児人工内耳でも画像診断が大きな役割を果たします。検査の順序としては、まず側頭骨高分解能CTを撮影し、蝸牛に奇形や骨化がないか、内耳道は正常か、鼓室や乳突部に炎症はないか、顔面神経やS状静脈洞の位置、側頭部の皮質骨の厚みはどうかなどをチェックします。これによって手術適応だけでなく手術計画の面からも大切な情報が得られます。
蝸牛内に電極を入れるスペースがあるか否かはCTだけでなくMRIでも確認する必要があります。例えば髄膜炎後の失聴で内耳炎に続発する蝸牛の線維化が起こった場合、CTだけではわからずMRIではじめて診断できる事があります。髄膜炎後の失聴では1〜2カ月に一度の頻度でMRI撮影を行うことが望ましく、これにより内耳の線維化の有無を監視します。
(5)(リ)ハビリテーションおよび教育支援態勢
小児人工内耳では患児本人は手術についての判断が出来ないので、この医療についての両親、家族の十分な理解と同意が必要になります。人工内耳手術の適応決定までには、必ず補聴器の装用とその効果を確認しなければなりませんが、この過程で患児のご両親に難聴児の聴覚による言語獲得に必要な日常生活での留意点や教育について説明を行います。