びで大人にどのような働きかけをするかで、その子の社会性を知る事ができ、殊に情動の共感を求めて行われるアイコンタクトは基本的な信頼感を表すもので、対人関係が育っているかどうかを見るのに良い指標になります。このほか微細な運動の成熟は指先の器用さや力強さで見る事ができ、遊びの持続性などがその子の自我の発達を知る手がかりとなります。特に低年齢幼児では発達検査の場面で本来の能力を発揮できない事が多く、それを補う意味でもこのような行動観察が重要です。
5歳以上で学童期が近くなると上記の検査の他に言語の発達をより詳しく調べるITPA言語学習能力鑑別検査や、WISC-R知能診断検査、読書能力診断テストなどを行います。年齢が高くなれば、これらの検査によって本来の知的能力に対して言語発達がどの程度かを評価できます。
(3)補聴器装用効果の判定
難聴児への補聴器装用の実際については、すでに膨大な知見の蓄積があり、詳しい点は本書の廣田先生の聴能訓練の項をご覧下さい。補聴器が適切に使用されているか否かの判断の指標として、少なくとも過大な入力でうるさがっていないか、あるいは十分な音量が得られずに発声が減ったり、声のピッチが高くなったり不安定になっていないかなどをチェックします。その上で一定期間、言語の発達状態を観察します。特に低年齢の高度難聴幼児ではまだ明確なことばの認知や表出の段階に達していないので、行動や発声の状態に基づいて補聴器の装用効果を評価しなければなりません。
帝京大学の田中先生は補聴器によって高度難聴児が順を追って聴覚言語を獲得して行く過程を表3の様な項目で評価しておられますが、このような観察項目の設定は実際の難聴児の追跡にとても役立ちます。米国でも乳幼児の人工内耳に際して音声言語の発達を評価するチェックリストが幾つか提唱されていますが、我々はこのうちIT-MAISというリストを使い(表4)、音声言語が順調に発達しているか否かを判断しています。ちなみに、我々が人工内耳手術を行った幼児側の術前のIT-MAISスコアは、いずれも10%程度で経過観察期間を通じて殆ど改善がみられませんでした。