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参考文献:

○内藤 泰:一次聴神経による語音の符号化-文献的考察。耳鼻臨床86:1607-1620,1993.

 

5)コトバは脳でどのように理解されるか

言語音は内耳で一次聴神経の神経活動に変換され、脳の付け根の脳幹といわれる部分をを経て大脳の側頭葉の一次聴覚野に至り、さらに一次聴覚野とこれををとりまく聴覚連合野でコトバとして認知、理解されます。大脳皮質の聴覚野は言語音に含まれる多様な音の情報を選別し、特徴を取り出すとともに、より高次の脳の働きと共同してコトバの理解に至ると考えられます。つまり音声によるコトバは、まずその音が声として認識され、その声の運なりがコトバとして意味を持ち、話し手の言いたい内容を理解できるようになるのです。

 

図4

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脳の中で聴覚言語の中枢処理を行う部位(図4)には、側頭葉では上記の通り上側頭回にある一次聴覚野、上および中側頭回の聴覚連合野、頭頂葉では体性感覚、視覚、聴覚を連合すると推測されている角回、縁上回があります。前頭葉では従来から運動言語野と考えられている左下前頭回後部のブローカ野、構音器官の運動中枢である運動野、運動の企画、プログラムを行うと考えられる補足運動野、高次の精神活動に関連する前頭前野が重要で、これらは主にコトバを話す時に働きます。また、側頭葉の聴覚野と前頭葉のブローカ野は弓状束という神経線維の束で密に連絡されています。さらに、文字などの視覚言語の処理には、後頭葉の一次視覚野とその周囲の視覚連合野が活動します。

聴力正帯の人が雑音と日常生活で使用されるような連続する語音を聞いた時の脳活動の違いをポジトロン断層法という特殊な装置でみてると、雑音では一次聴覚野だけ活動するのに対して、コトバを聞くと一次聴覚野と、その周囲の聴覚連合野が広い範囲にわたって活動すことがわかります。また、従来から失語症(コトバがうまく話せない病気)の患者さんの脳の観察にもとづいて、ブローカ野はコトバをしゃべるための中枢と考えられてきました。しかし、実際にはしゃべらなくてもコトバを頭の中で想起するだけでもブローカ野や補足運動野といったコトバの表出に関わる部位が活動することも同じ方法で明らかになってきています。単語は一定の規則に従って並べられてはじめて文となり、物事の状態や構造あるいは思想を伝えるのに使われます。このようなコトバにおける文法処理の場としてもブローカ野は一つの有力な候補になっています。

 

 

 

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