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たとえば、我々の脳細胞は約100億個あります。これは重さにすると大脳皮質1mg(千分の1グラム)あたり12万個とも言われています。しかも大脳皮質の細胞には、ある部分がこわれると他の部分がある程度肩代わりする働きがありますが、内耳ではある部分がこわれると確実にその部分の難聴が生じ、ほかの部分で肩代わりすることはできません。すでに述べた通り、内耳の中の有毛細胞は片耳で約1万5千、両耳あわせても3万個ぐらいしかありません。これらが、生まれてから毎日、24時間休むことなく一生働き続け、しかも一度こわれると元に戻らないのです。つまり、外耳道から大脳にいたるまでの聞こえのシステムのうち、内耳が最もこわれやすく、しかも壊れると元にもどらない最大の弱点になっているのです。

 

3)言葉の音としての特徴と内耳の働き

われわれが話すコトバにはどのような特徴があるのでしょうか。例えばわれわれ日本人の話すコトバについてみると、五つの母音と“p、t、k、s”など10数個の子音に母音が結合した子音音節から成り立っています。これら母音や子音音節の音響的な特徴をサウンドスペクトログラムというグラフで観察してみると図3のようになります。縦軸に周波数が、横軸には時間がとられてます。ここでわかることは、それぞれの母音に特徴的な濃い線がそれぞれ数本ずつみられることです。これをフォルマントといいます。声帯の振動数である基本周波数(FO)はほぼ100〜250Hzの範囲にあり、一方このフォルマントの周波数帯域はかなり高い所に位置しています。フォルマントは声帯の振動が口腔や咽頭腔で共鳴し、特定の周波数帯域のエネルギーが強調されて出来たもので、低いほうから第1フォルマント(F1)、第2フォルマント(F2)、さらに第3(F3)・第4(F4)フォルマントと数えることができます。しかし、大変興味深いことに各フォルマントの周波数帯域には大きな個人差がなく、それぞれの母音でほぼ決まっているのです。なかでも第1フォルマントと第2フォルマントは母音の情報として最も重要で、図3に示すように、この両者の組み合わせで各母音ははっきりと区別されて、これがわれわれが母音を認知する鍵となっていることがわかっています。

 

図3

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一方、子音音節は先頭の子音部、移行部分、そして後続母音部から成り立っています。子音音節を特徴付けるものは、持続時間は短いが幅広い周波数にわたる子音部と、これに続く移行部分です。また同じ子音でも“p、t、k”などの無声破裂音は極めて短いクリック音ともいえる子音の信号のみであり、かつこの子音部を少しカットしても、移行部分の情報がし

 

 

 

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