総括
〜「グスコーブドリのまちづくり」のために〜
本調査では、岩手県東山町で進められている「宮沢賢治のまちづくり」の実現に向けて、地域の人々の声を聞きながら、様々なアイデアを検討してきた。その結果を踏まえ、これから、東山町で環境保全型里地づくりを進めていくために、基本となるコンセプトやアイデアをいくつか提示する。今後、こうしたコンセプトをたたき台として、さらに地域内外の人々の意見を聞きながら、一層充実したまちづくりが進められることを期待している。
コンセプト:「賢治の考えたイーハトーブへ、グスコーブドリのまちづくりの始まり」
宮沢賢治が、「肥料用炭酸石灰」を「タンカル」と命名し、このタンカルで、飢饉に苦しむ東北の農民を救済しようと技師として営業マンとして働くことになった。飢えに苦しむ農民救済のために日々働くなかから「雨ニモ負ケヅ、風ニモ負ケヅ・・・」が詠まれた。東北砕石工場は、賢治が命をかけて農民救済のために技師として働いた場であった。
ここから、宮沢賢治と東山町の「グスコーブドリのものがたり」が生まれることとなった。
この経緯を受けて、東山町の町づくりと商品開発を考えると以下のシナリオが見えてくる。
少数ではあるけれども宮沢賢治の精神が残っている。この精神を受け継ぐことで、農業、石、人づくり、まちづくりをしていく。賢治の希望と夢を描く町づくり。
地域の人の活性化につながるように小さな組織づくりから、みんなの幸せづくりを行う。
太陽と風の家の役割は、農業と農産物においては、「農民芸術概論」(岩手調査資料1])、食文化においては、「イーハトーヴの食べもの帖」(岩手調査資料2])、石の商品開発においては、「石の研究史」をひも解き、東山町民とともに学びながら共有していくこと。ワークショップは、賢治の精神を共有するために行われる手法。そして、その成果は、賢治の考えた「ダスコーブドリの町」づくりへと、最初は小さくともゆっくりゆっくり、時間をかけて、体験を重ねながら構築していくこと。行政主導型ではない、広告代理店任せでもない、住民自身による人づくりとモノづくり、グスコーブドリの町づくりを行うべきです。
ゆっくり、気が付いた人から、賢治の考え方に基づいた種を掘り起こし育てていく。芽が出たら皆で温かく見守り育てて行く。他品目少量の作付けを行い、地域内自給、家庭菜園中心、売ることの喜びを謳歌する農民芸術、農民の暮しを堪能する生き方。グスコープドリの町は、きっと「小さな宇宙」のように見えるに違いない。宮沢賢治や鈴木東蔵が、再び大きく皆の心の中に生きづくようゆっくり歩み始める。その役割が「太陽と風の家」が担っていくのであろう。
コンセプト:宮沢賢治の「農民芸術概論」と東山の農業
味噌を造る腕はあっても造らず買う。そうしたら農地も荒れていく。持っている技術は失われていってしまう。こんな農業の現状は、とても悲しい。都会から来た人と一緒に農家を変えていくのが一番ではないのか。包装によって価値を見出すようなことはしたくない。化学肥料を使わず農薬を使わない農業ができる所は少なくなった。東山町は、もう一度農業のあり方を問い直そうとしている。農繁期のグリーンツーリズム、農業体験、出菜採体験、田植踊り、山の神の祭り、農地を維持し、未来へ受け継ぐこと、地域内循環と多品種少量栽培、この為の食文化の見直し。賢治の精神を思い返して、食への感謝と農業への感謝を行う農業、ひいては、子どもたちへ健やかな肉体と精神を引き継ぐことになるのであろう。「農民芸術概論」と「イーハトーブの食べもの帳」は、太陽と風の家が、地域農業とともに学習していく基本書となり、この基本コンセプトの上に、農業と農作物、食文化のひとつひとつに「ものがたり」をつけていく作業である。サポニン、サイカチが、サイカチ沼(賢治の末の中に記載)の物語にでてくるように、ものがたりを確認し、語り部のように語ることから始めよう。