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後者は地上局の位置と衛星の軌道が分かっていれば、計算で求めることができるので、それを求めて差引きをすれば、ELTと衛星との、衛星の移動による距離の変化に比例するドップラー周波数を抽出できる。この考え方は、船舶の航法用の測位に使用される衛星航法装置と逆の関係になり(NNSSでは衛星からの信号を船舶が受信して船舶の位置を船上で計算する)、地上局は、遭難ELTの位置を計算できる。ただし、このシステムでは、既存のELT又は船舶用のEPIRBを使用するので、それらの送信機の周波数安定度の関係で20km程度の測位誤差が生ずることがあり、また、衛星の軌道の地上への軌跡の両側に測位点が求められることもある。このアメリカの計画は、カナダとフランスとの国際協力で実施されることになり、このシステムはサーサット(SARSAT:Search And Rescue Satellite Aided Tracking)と呼ばれている。アメリカ及びカナダでは、この衛星(TIROS気象衛星の一部を使用)の打上げ前にもアマチュア無線衛星のオスカー(OSCAR-6/7)による可能性実験も行っている。一方、ソ連もこのシステムに興味を示し、独自の衛星を打ち上げてこのプロジェクトに参加することになりソ連のコスモス衛星を使用するためにコスパス(COSPAS:COSMOS Satellite for Program of Air and Sea Rescue)と呼ばれ、併せて、コスパス・サーサット・システムという国際協同システムとして試験運用される協定が成立して今日に至っている。なお、ソ連の衛星には243MHzの中継機能はない。このシステムは、試験的なものであったがソ連の第1号衛星の打上げ直後の1982年9月10日、カナダのブリティッシュコロンビア州北方の密林に墜落したセスナ機の瀕死の乗員3名を助けたのを初めとして、今日までに陸海空で数百名の人命を救っている。現在のところCOSPAS側とSARSAT側のそれぞれ各2衛星が当分の間運用されることになっている。

このシステムの欠点は

1] 既存の周波数安定度のあまり良くない送信機の電波を使用して位置測定の計算をするので測位誤差が大きくなるとともに、衛星軌道の両側に測位点が出ることもありうる。

2] 衛星はその受信信号を中継するだけのため、その有効範囲は、送信をする送信機と衛星からの中継を受信する地上局(局地利用者局:LUT、Local User Terminal)とが低い軌道の衛星を同時にみる範囲に限定される。

3] 121.5/243MHzの標識の送信信号は、耳で聞くと“ピュー・ピュー”という信号音で変調されているのみで、送信局名の符号もついていないので、遭難者が特定できないというものである。

 

 

 

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