SOLAS条約では、この装置は、「通常繰船される場所に近接して設置するか、又はその場所から遠隔作動できるもの」と規定して一方で、総会決議による性能標準では、「自動浮揚型」となっている。また、国際無線通信諮問委員会(CCIR)の勧告で装置の中の識別番号付けには、同じ船舶に複数の装置の搭載が想定されている場合は、その際は1台を自動浮揚型としている。非浮揚型は、このような船上発信と自動浮揚を別の装置とする場合を考えたものである。これに対して電波法では「G1B電波406MHzから406.1MHzまでを使用する衛星非常用位置指示無線標識」と呼んでおり、自動浮揚型のみが規定され、非浮揚型は認めていないという違いがある。
5] 条約ではA1からA3までの水域を航行する船舶に4]の装置に代って、インマルサット衛星経由で海岸地球局に規定の遭難信号を送る(1.6GHzでインマルサット静止衛星経由で動作をする)自動浮揚型衛星非常用位置指示無線標識装置の搭載を認めている。ただし、このシステムは送信している標識の位置を、システムとして測定することができないため、送信信号の中に何等かの手段で遭難位置を自動的に挿入することが要求されている。この型の装置は、船舶安全法では規定されていないが電波法では「F1B電波1644.3MHzから1646.5MHzまでを使用する衛星非常用位置指示無線標識」としてその性能が規定されている。
このように、現行の非常用位置指示無線標識装置にはその種類と名称が法令によって異なるという混乱があることを述べたが、ここでは4]の標識についてのみ詳述する。その前にコスパス・サーサット・システムについて参考までに概説する。
(1) コスパス・サーサット・システムの概要
1970年代の後半に、アメリカの航空宇宙局(NASA)は、当時15万機余りもあった民間の小型機(一般航空)の遭難位置の捜索のために衛星を使用する研究を開始した。この研究の考えは、航空機の遭難標識である非常用測位用送信機(ELT)からの送信(121.5/243MHz)を、比較的低い軌道を回る衛星による中継で地上で受信し、衛星の移動によるドップラー効果による受信周波数の変化から、ELTの送信位置を決定しようという計画であった。地上局による受信周波数は、ELTと衛星との間のドップラー周波数と衛星と地上局との間のドップラー周波数の和で変化する。