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実践的な視点からは行われず、保守・自由主義陣営のイデオロギー的な色合いが強い。市民に選択の自由を、また民間の効率性を活用するという旗印を掲げているが、同じコストで民間が公的サービス以上のものを提供できるのか、あるいは同じレベルのサービスをより安い価格で提供できるかが問われるが、民間がどうしても割高になって経営出来なくなって撤退したというのが、今までの歴史的展開であった。
表3-2で見たように、世界で最も税負担の高いデンマーク人の19%が、もっと良いサービスを提供してもらうためなら税金が上がっても良いと答えているが、それは全ての公的サービスについてではなく、医療、障害者福祉、高齢者福祉などの分野に限られる。民間が効率が良く行政は悪いというのは、日本のような国には当てはまるが、一般化できる議論ではないことをデンマークの行政サービスが示している。民間が効率化しなければならないのは、市場経済の競争原理が働いているから日本のように、政・官・民の連携に問題があるところでは、市場原理は働かないから民間も行政も効率が悪くなる。
逆に行政でも、公募による人事管理や、行政サービスの品質管理を徹底することで民間と競争できる効率性を確保することも可能である。デンマークはそういう実例を示している。問題は公であろうが民であろうが、いかに効率性を確保できる管理体制を整備するかだろう。公か民かという単純な二元論的な問題ではない。公が腐敗すれば民も腐敗する。公の透明性が確保される社会では、民もまた透明にならざるを得ないだろう。従って公と民は相対するものではなく、社会や国家という一つの実体の表と裏のように切り離すことができないものなのではないかと考えられる。デンマークの高負担の元は、民間の生産である。それが租税を通じて行政サービスになるのだ。民間の生産を支える市民が、同時に納税者として公的サービスを支えているのである。公民一元論の視点を提唱したい。

 

6.3 行政の透明化

 

デンマーク人の行政への信頼度が高いのは、行政の透明度が高いことに起因していると思われる。近年の日本のように、行政の情報公開がなかなか実現できず、度重なる税金や公的資金の無駄遣いが指摘され構造化している国では考えられないことだろう。行政の透明性が確保されていなければ、高負担社会は成立し得ないことは確かである。行政の透明化はいかに築くか?、これは19世紀以来、民主政治の大きな課題であった。中選挙区、小選挙区などの選挙制度の改革なども手法の一つだろうが、これといった一般的な処方箋は、未だに無いようである。ただ、地方自治が民衆政治の学校といわれるように、基本的な市民生活に関する分野をデンマークのように思い切って分権化することは、行政の透明度を高めることに寄与するように思われる。

 

 

 

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