日本財団 図書館


グレステッド・ギーレライエ市のようなモデルプロジェクトでは、民間参入のために意地でも成功に見せようと採算無視の投資をしているのではないかとの疑問が抱かれているということを述べたが、行政は効率が悪く民間は良いという通念を民間企業が利用している可能性はある。財政が逼迫している自治体の政治家がそれに飛びつくのは分からないでもない。デンマークではこのような試行錯誤がこれから暫く繰り返されるだろう。

さらに付け加えると、一般論的に見て行政の効率化の動きは税の高いデンマークだけでなく、税の低い米国でも近年盛んになってきた。フロリダ州は、98年2月の世論調査で住民の意向を聞き、57項目に上る「行政評価基準」を決めた。2000年と2010年の数値目標を掲げ行政の政策展開を行う。ホルベック市やスランゲルップ市の品質明示とは違う手法だが、市民の満足度を配慮し、行政の効率的運用を目指す点ではにている。フロリダ州の場合、人口10万人当たりの暴力犯罪発生数を98年の1066件から、2000年には955件、2010年には850件に、また固形廃棄部でリサイクルされた割合を98年40%、2000年には45%、2010年には50%にすることを目標にするといった具合である。英国、ニュージーランド、オーストラリア、フランスなどでもこうした動きが活発化してきている(西村友一、1998)。こうした大きな流れは、民主政治の成熟化に伴い、言葉として長年存在してきた「主権在民」が文字通り現実のものとして成立し始めていることを示しているのではないかと思われる。

 

6.2 公的病院に勝てぬ民間病院:公民一元論の視点

 

デンマークの殆どの病院は公立(国、県)であると記した。病床数は年々減少しており1998年1月には25000床であった(このうち精神病院の病床は2200床)。民間病院は営利・非営利(教会系)を含めて全国に数カ所あったが、1990年に500床あったものが、現在では200床にも満たない。営利の病院は現在1カ所しか存在していない。多かった時期でも全体の2%、現在は1%にも満たない。因みに、民間の精神病院は存在していない(Sundhedsstyrelsen:1998)。

公的病院は、日本や米国のような出来高方式ではなく、予算方式で運営されているために、手術患者が多い分野では手術までの待機期間が長くなる傾向になりやすく、この10年余り政治問題化してきている。ことから民間病院の活用が国会で議論されるようになったが、デンマーク人は公的医療制度に慣れ親しんでおり、民間が入り込む余地は殆どないのが実体である。病院分野で言うと、政治的議論はどちらかというと

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION