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設立を、行政と協力して実現しつつある。土地は自治体が提供し、共同体を作りたい高齢者を募って、その人達で建築や運営のルールを決めるという高齢者を主体とした新たな試みである。このように行政によるお仕着せの高齢者福祉でなく、高齢者自身による高齢者対策がホルベック市では展開されつつある。

 

4.4 介護のニーズ判定とサービスの選択権に見る市民と行政との合意形成制度

 

市民を中心に据えた高齢者福祉制度は、介護のニーズ判定から、入居施設におけるサービスの選択権にまで及んでいる。

ニーズ判定の方法は各自治体によって異なる。従って判定に使う用紙も当然異なってくる。ここでは、ホルベック市(人口33,000人)、グラズサックセ市(人口62,000人)そしてリーベ市(ユトランド半島、人口18,000人)のニーズ判定表を比較してみる。いずれの場合も、担当の訪問看護婦が30分から1時間かけて高齢者の自宅で話し合いながら情報収集し、その場でどのような支援サービスを、何曜日のどの時間帯にどれだけ提供するのかを決定する。あとは利用者の状況の変化によって臨機応変に変える。例えば軽度な要介護で普段は殆ど支援を受けていない人でも、風邪で寝込み、買い物や掃除、調理などが出来ない期間はサービスを緊急に提供する。風邪が治れば引き上げる。このような緊急事態の時、上述した在宅ケアチームが有効に機能する。早朝の会議で自分たちの労働力と訪問しなくてはならないニーズを調整をして、すぐに対応できるからである。新たな障害や疾患など、大きな変化が起きた場合にはニーズ判定を新たに行う。変化がない場合でも半年に1度は見直さなくてはならない。このようなことは、どの自治体でもほぼ同じだが、ニーズ判定表は極めて簡素なグラズサックセ市のものから、詳細な情報を書き込むホルベック市のものまで大きな違いがある。また、リーベ市ではニーズ判定表に記されたことは「契約」(Kontrakt)と明示されている。グラズサックセ市でも「協約」(Aftale)という言葉を使っている。ホルベック市のものにはそのような明示はないが、対話によって合意したサービス内容を提供する義務が自治体に発生する以上、契約と何ら変わりない。また、必要事項が書き込まれたニーズ判定表には担当の訪問看護婦のサインがされ、綴り用紙のコピーは利用者に渡されるから、何が合意されたのかは一目瞭然である。

かつては看護婦や、さらにその昔は事務職員が一方的に決めていたニーズ判定を、現在では専門職の訪問看護婦と高齢者本人との対話で合意形成されるようになった。文字通り高齢者を中心にした高齢者福祉制度に変革されてきていることがわかる。

いずれの自治体のニーズ判定表も、かなり大まかだと言えるだろう。特にグラズサックセ市のものには介護内容の項目さえ書かれていない。全てを合意をして書き込む

 

 

 

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