さらに90床の老人ホームを新たに建設する必要があることが判明した。こうした対応は財政的に極めて難しいこともすぐ判明した。そこで、当時の制度を分析して、より効率の良い資源の活用方法はないものかと検討が行われることになったのである。
市議会は、1988年8月に3名からなる改革プロジェクト事務局を市役所内に設置した。ホルベック市の改革で注目すべきことは、それから半年以上かけて市民と自治体職員との共同作業で改革案を練り上げたことである。これは、改革案を作り上げる過程でできるだけ市民と職員の意見を反映することを議会が条件として付けたためである。また、最終案ができるまで、途中で政治家は口を挟まないことが約束された。そこで、事務局が中心になり全市に地域別や、在宅ケアサービス、配食サービス、デイサービスなどのテーマ別のワーキンググループがいくつも作られることになった。ワーキンググループでは市内や多々の自治体の調査を行い、ホルベック市の来るべく高齢者福祉制度のありように対する様々な議論が行われ、改革の素案を作成した。
89年1月、全てのグループが市内のホテル会議室に一堂に集まり、それぞれが持ち寄った素案を討議した。提出された素案と、この日の議論をもとに運営委員会は改革案を纏め、またそれを実現するための財政計画を事務局が作成し最終的な改革案が6月の議会に提出された。その結果、計画案は原案通りに了承され、改革は夏休み明けの8月から開始されることになった。デンマークも日本同様に4年に一度、統一地方選挙があり議会の構成が変わる。そのため、見直しが幾度か行われ、当初の計画から多少変わったこともあるが、基本的な理念や、改革の方向性は今でも一貫している。また、この10年間に痴呆性老人の要介護者が急増したことから、当初よりもこの分野の優先順位を高めるような軌道修正も行われてきた。
この改革の程は、次の3点に要約される。
1) 高齢者福祉サービスを、それまでの市役所を中心にした中央集権的なものから順次5地域に分権化する。
2) それぞれの地域には在宅ケアと施設ケアを統合化した高齢者総合センターを設置し、そこで全ての問題を解決できるようにする。
3) 高齢者政策への高齢者自身の参画の機会を拡大する。(利用者委員会、高齢者委員会の設置)
4.2 地域に分権化した高齢者対策
地域への分権化が目指すことは、住民に近いところに福祉資源を整備し、迅速なサービス提供を実現するとともに、より地域性に合わせた対応が出来るようにすることである。