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こうした背景には、要介護の高齢者が増加したことの他に、1984年以降、出生率が上がってきた結果、保育や義務教育関係の職員拡充が当面大きな問題として浮上して来たことがある。高齢者福祉と児童福祉ならびに教育に関する需要が同時に膨らみ、自治体財政を逼迫させてきているのだ。自治体政治家は否応なく、しかも早急に優先順位の機敏な転換に迫られているわけである。

さらに、1994年頃からホームヘルパー派遣会社に国が時間給の半分を補助する制度を導入した。社民党中心の連立政権における中央民主党が主張し実験的に導入されたが、97年の見直しでは、補助を継続することが決まり急速に全国に広がった。現在4000社ほどこうした会社がある。殆どは自営業的な小さな会社である。サービスの対象者は高齢者だけではない。掃除、窓拭き、洗濯、庭の整理、雪かきなど家庭における様々な仕事への支援サービスである。この制度の当初の目的は雇用創出と、高齢者が公的サービスとは別の選択を持てるようにすることである。98年に行われた調査によると、デンマークの全世帯の1割が活用しており、制度は成功したとの評価が行われた。時間給100クローネ(約2000円)の半分が国庫補助であることが成功の理由である。利用者の負担が50クローネ(約1000円)に押さえられているから一般の利用が伸びたのであり、補助金が止まれば利用者は全額負担になるから激減して会社の存続は不可能だろう言われてきた。
しかし、見直しにより補助金が保証されることにより、起業家が安心して参入できこの制度を成功に導いたと言える。地方議員がこの制度に目を付けても不思議ではない。自治体が提供するサービスのある部分をそちらに移行させようとしており、そうすれば、国の補助と市民の自己負担で、自治体が提供しているサービスを減少させることが出来る。全国に4000という受け皿もある。問題は、市民が今まで無料だった公的サービスから、選択権はあるが自己負担をする決断をするかどうかだ。自治体によるホームヘルパー制度への不満はこうした状況から背景にある。

このような状況の中で、ほぼ全市町村に支部のある高齢者問題の全国組織(圧力団体)、「高齢者の問題」(Aeldre Sagen、エルドゥレ・セーエン)が、99年2月ユトランド半島の地方都市スキーベ市(Skive、人口28000人)を地方裁判所に訴えた。ケ―スは同市在住の62歳になるポリオ疾患で車椅子の1人住まいの男性で、今年からホ―ムヘルパーによる2週間に2時間の床洗いと洗濯のサービスを受けられなくなったことに対するもので、同市の決定は福祉サービス法(1998年施行)に対して違法だと主張しているのだ。訴訟に踏み切った同組織の理由によると、この男性のようなケースが多くの自治体にあって、組織のメンバーから問い合わせが多いことと、不服審査制度なども利用したが退けられたので最期の道として裁判を選んだとしている。ポリオの男性も、2週間に2時間のサービスをホームヘルパー派遣会社を利用して解決することには問題ないのだが、法律を読んでみると行政サービスを受給する権利があると確信したことで裁判することを決心したと報道に述べている。もし利用する権利が

 

 

 

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