日本財団 図書館


病気や障害などで自立できなくなった高齢者に救貧でない老齢年金という現金給付が提供されることになったことは、自由主義的ヒューマニズムの影響と言えるだろう。現在に至るまでの社会保障の歴史は、職業、年齢、性別、資産、倫理、人種等で受給を限定されいたものが、そうした条件を取り除き、全ての人々が安心して生活できるような制度への改革の道であった。その辿った過程や、作られてきた制度の仕組みはそれぞれの国の社会、経済、政治状況によって異なっているが、西欧諸国の大きな流れは、そういうことだと言えるだろう(Socialt Tidskrift, 1941:92)。

制度の展開の違いでは例えば、制度の維持・運営をするための財源を何処に求めるかという問題がある。行政介入型の場合、大きく分けて租税方式と社会保険法式がある。デンマークはドイツやオーストラリアのような保険法式ではなく、租税方式を選択した。これは、1803年以降、租税方式で救貧制度を運営してきた経験からして、やたらと事務が繁雑になる保険法式にはメリットが無いと判断したからではないかと思われる。これにより、ドイツ型とは対照的な社会保障制度制度がデンマークに出来ることとなった。老齢年金保障ではデンマークのほかにもニュージーランド、サウス・ウエールズ、英国などが租税型の年金制度を導入した(Petersen, 1985:108)。その後、年金だけでなく医療、失業、労働災害などの社会保障が20世紀を通じて次第に拡充化されるわけだが、デンマークはその中で殆どを租税型で制度作りをしてきた。特に1960年ごろから、その傾向が加速化されてきた。

1960年頃までの老人ホームには、行政の直営のものもあったが、非営利民間への委託、さらに営利の民間のもが入り交じっておりまとまりのある制度とは言えなかった(Ammundsen, 1982:151-152)。60年代になって自治体が次々と直営の老人ホームを建設するようになって、次第に民間の営利型が消滅し、自治体に高齢者福祉政策らしいものが出現するのである。限られた高齢者を対象にしていた老齢基礎年金が、所得や資産に関係なく67以上の高齢者全員に支給されるようになるのは1957年である。また、高齢者に対するホームヘルパー制度が導入されたのは1958年である。それまでのホームヘルパーは母親の代わりと努めることが目的で、支援が必要な母子家庭を対象にしていた。障害を持つ高齢者に補助器具が提供されるようになったのは60年代後半である。老人ホームの居室がトイレ・シャワー付きの個室になり居住性が向上したのもこの頃である。

さらに、在宅ケアが充実するようになるのはようやく1980年代になってからだ。80年代を通じて、それまで日中だけだった在宅ケアを24時間体制に拡充化する自治体が増えた。その結果、重度な要介護高齢者でも在宅生活が継続できるようになるのである。在宅ケアの24時間化は画期的な改革であった。この他にも80年代には現在の政策に通じる重要な改革が行われている。87年の高齢者住宅法によりバリアフリーの2DK、60平方メートほどの住宅が老人施設の代わりに建設されるようになり、居住性は個室

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION