こうした改革が比較的短い期間で可能なのは、財源が市町村の住民税で一元化されており、国や県の許認可は一切必要ないこと、また福祉従事者など人的資源が自治体公務員で一元化されていること、そして施設などの物的資源も自治体のもの、つまり市民のものとして管理権が一元化されていることなどから、自治体の政治的決断で直ぐに改革に着手することが出来るからである。また、軌道修正も直ぐに可能で、最も効率良い租税の活用法を各自治体は、他の自治体の経験などを参考にしながら独自に工夫をするわけである。それが自治体の政治家ならびに行政職員の責務なのである。
従って自治体の職員は、日本の助役に当たる事務長や部長職から福祉現場のホームヘルパーまで、それぞれのレベルで選考委員会を作り公募で行われる。自治体の政策を最も効率的に達成できる能力のある人材を広く社会に求めるのである。このように、住民税を財源にして徹底的に市民に奉仕する地方行政の体制があればこそ、臨機応変な改革が可能だと言える。1984年から出生率が上がりはじめ、次第に保育園に待機ができるとすぐに保育従事者を増やすことができたのは、分権化によって、権限と責任が市町村に明確に位置づけられているからである(図3を参照)。日本で言う、高負担高福祉を可能にしている行政的基盤がここにあると言えるだろう。
なお福祉従事者の数であるが、1997年の65歳以上のデンマーク人は78万人である。65歳以上1000人当たりの高齢者福祉従事者は120人である。これは恐らく世界で最も高い数値だろう。全ての人口を対象にすると、1000人当たり18人になり、人口1万の自治体だと180人、人口5万人の自治体だとおよそ900人の高齢者福祉従事者がいることになる。表4にある3自治体の人口と従事者の合計を見ると、ほぼその通りであることが分かる。