日本財団 図書館


しく食べることでもあり、それによって食欲もでるものである。食卓を囲んで会話も生まれ高齢者同志の交流も深まる。配膳や後片付け、食事づくりもしているところでは調理も含めて職員と高齢者が一緒に行なう。いままでみんな家でやってきた事であり、それぞれ得意なものを持っているはずで、高齢者自身が参加していくことは自分の生活場所としての親しみと、積極的な生活態度を作り上げていく大切な過程である。

このレポートがまとめられる寸前に、社会庁が『痴呆性高齢者保護のための緊急ベル使用に関する勧告』(1992.12.14)を発表した。それによると高齢者のための『特別な住まい』((ナーシングホーム、老人ホーム、グループ住宅など)において、高齢者を保護するための強制措置は(精神病患者にたいする特別強制措置法の適用認定範囲以外であるから)、いかなる法的根拠を持たないというものである。したがって病棟などを閉鎖したり、高齢者の生命が危険にさらされている場合にも、本人の承諾をえない保護措置は、ケースを十分考慮した上で行なわれるべきもので、決して自動的に行使される権利ではないと指摘している。
まず話し合いによる説得が試みられるべきで、完全な閉鎖はされてはいけないというものである(一般住宅と同じように外へでるためのドアには鍵がかけられてもいいが、高齢者自身が、あけられるものでなければならない)。技術的な解決法も決して強制措置の手段として使用されてはならず、緊急ベルも、高齢者の意志で押される性格のものを基本とし、個人の拘束に繋がる使用は例外のみとすると制限している。ただし、高齢者が誰にも告げずに外へ出ていってしまう場合、ドアに取り付けられた緊急ベルが、職員のポケット・ベルに通報されすぐ玄関に職員が駆け付けられるタイプのものは使用してよいとしている。いずれにしても、質の高い、良い実践がされており、専門知識を持った職員が十分揃っていれば痴呆性高齢者の保護問題は十二分解決されるものであると強調している。

『抑制』という措置はスウェーデンでは存在しない。不安な高齢者への対応は、一杯の温かいミルクと職員の話しかけによってなされる。不安を根源的に少なくするために、高齢者の家族の写真や使い慣れた家具を持ち込まれ、また職員が一人ひとりの高齢者の生活史を知ることによって、現在の生活との接点が、作り出されていく。また出来るかぎり高齢者の健康な部分を引き出して、残存能力を、フルに使った積極的な日々を、作り出していくことへの努力がなされている。高齢者自身の生活が、保障されないケアは、高齢者をもっとも不安にする原因である。正しい生活のリズムをつけることも重要視されている。昼間も、ベッドに寝たきりではなく起きあがって『普通の』生活をすれば、夜、徘徊することなく、睡眠薬を詰め込むことなく安眠がとれる。

高齢者自身の、ケアヘの参加も、たいせつな視点である。介護をたんに受けるのではなくて、自立した生活を可能にするために、介助してもらうという出発点を、持つか持たないかで、生活の質が大きく変わってくる。介助を受けていても人生を実現す

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION