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りの高齢者でそれほど余力のないひとでも、病気でないかぎり毎日ベッドから起き上がり、介助を受けながら、普通の人と同じように、朝の身だしなみを整える。そして、一時間でも二時間でも自分の力が許すかぎり、椅子に腰掛けて、起きた生活を心がける。病気でなければ誰もが行なう日常の行為である。

ナーシングホームに住むからといって、

●なぜ眠たいのに一斉起床を強制されるのか?

●家にいるときは何十年来毎朝暖かいベッドで朝食をとってきたのに、ナーシングホームに引っ越してきたからといって、こんなに歳をとってから長年の慣習を変えなければならないのか?

●病気でもないのになぜ着替えないで寝巻のままで一日中過ごすのか?

●ナーシングホームに入ればおしゃれは必要ないのか?

●自分のお尻にぴったりする座りごこちの良い座り慣れた椅子に、なぜ座り続けられないのか?

●いつも眺めて愛しんできた大好きな絵を、なぜもう眺められないのか?

●つまり、今まで慣れ親しんできた『私』の生活を、ナーシングホームに引っ越してきたら、なぜ、突然止めなければならないのだろうか?

スウェーデンのナーシングホームは何処にいっても、アンモニアと、食物の匂いが混じった、病院特有の匂いがしない。無臭にちかい。かといってお襁褓をしない人がまったくいないわけでもないし、失禁症の人がいないわけでもない。お襁褓は日に何回と基準を決めて交換するのではなくて、一人ひとりの排尿度によって考慮される。お襁褓だけでなく、一人ひとりのニーズがケアの出発点である。また排尿量を考慮して、一人ひとりの高齢者の体の大きさにきちんとあったお襁褓が丁寧に選ばれる。お襁褓を換えた後の洗浄もこまめに行なわれる。もっと大事なことは、排尿パターンをみて、定期的に、必ずトイレに誘導することである。訓練によって排尿リズムを覚え、昼間は自分で始末ができるようになっていく。自分で排泄が出来るということと同じように、自分で食事をとることも、生きている一人の人間としての自覚をする上で、極めて大事な行為である。スウェーデンのナーシングホームや老人ホームでは比較的少人数(10-12人)で構成された病棟/グループの専用食堂で高齢者と一緒に職員も食事をとる。

食事をとろうとしない痴呆性高齢者に言葉で「食事をしなさい」といっても、抽象的なことを理解する、脳の働きが破壊されているために、行動に移すことは無理であるが、食事をする人をみてその真似をするという、具体的な行動はとれるから、職員や他の高齢者を見て自分で食べることができるようになる。これをスウェーデンでは『教育学的な食事時間』と呼んでいる。病人でないかぎり食事はベッドでするものではなく、食卓についてみんなとするのが普通の家庭でやっている事であり、そして楽

 

 

 

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