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る主体は高齢者自身である。職員は高齢者の視点にたって、出発するべきである。高齢者のための、ケアであるからである。スウェーデンのナーシングホームなどの職員は制服を着用しない。普通の私服である。施設という雰囲気を与えない考慮もあるけれど、ケアを与える人と、ケアを受ける人、という上下関係、依存関係を取り払い、一つの家族としての生活共同体という環境をつくるためである。自分の家に住めなくなったとき、完全とはいえなくても、それに値する生活の場所が、高齢者の、自己存在の確認を支えるうえで大切な要因となるからである。人間は主体性を奪われるとき、生きがいも喪失するものである。

以上述べたことはほんの一部分であるが、なにも特別なことではなくまったく普通のことである。高齢者が一人の人間としてほかの人と同じように普通の生活をおくることである。ケアとは単に保護を与えることではない。立派な病院やサービスハウスがあれば、高齢者が幸せに暮らせる、というものではない。高齢者の望む生活が、そこに、保障されることである。
そしてその内容を決めるのは誰でもなく高齢者自身である。どういうケアを受けたいか、それを決めるのは職員でも家族でもなく高齢者自身である。個人の尊重ということは、そういうことである。経済危機に悩むスウェーデンではあるが、少なくとも、この原則を貫いた高齢者ケアは、実践されているし、これからも更に追求されていくであろう。高齢化だけでなく、介護の責任が、家族から公共に移された過程も、他の諸国よリ一足先に歩むだけに、スウェーデンの実践から学ぶことは大きい。ケアの視点を含めて、スウェーデンの築いてきた経験から、日本の高齢者ケアに対して何らかの示唆が与えられれば、このレポートが本望とするところである。

 

参考文献

 

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