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第8章 おわりに-ケアの視点

 

このレポートではスウェーデンの高齢者ケアの歴史や制度が中心に紹介されてきた。それらはある意味ではひとつの結果として目に見えるものである。最後に、この結果をつくり上げてきた目に見えない部分、ケアの思想・視点を明確にすることによってレポートの締め括りとしたい。それはスウェーデンの高齢者ケアがひたむきに追求してきたものであり、これからも追求しつづけていく原点だからである。

歴史的にケアの全体の流れをみてみると、すべてを保護する施設ケアから一歩進んで、住み慣れた環境のもとで個人の自己資源と周りへのネットワークを強化するなかで、安全性と自立性の両方伴う独立した生活を基にしたケアヘと変革されつつある。反面、ケア・ニーズの高い高齢者には『特別な住まい』(老人ホーム、ナーシングホームなど)によって安全性と介護を更に保障し、同時に独立した生活も出来るかぎり保障しようとするものである。この変革の背景にあるのは、施設ケアの風靡した70年代の経験から、施設は人間にとって相応しい住まいではないという確認、高齢者が施設のたらい回しなどによって生活場所を変えるたびに自己能力を10%喪失し、挙げ句は生きがいも失っていくという事実がある。

スウェーデンには、ホスピスそのものはそれほど存在しないし、これからも拡張されるとは思われない。どちらかというと、末期医療(ターミナルケア)は病院の医療資源を使って行なう在宅医療のなかで取り組まれている。住み慣れた自宅で、家族や身近な人とのふれあいのなかで、人生の最後をおくる。なぜ、そうなのか?それは人びとが望むからである。家族に心配をかけず独りで人生に別れを告げたい人のためには、病院の敷地にそのときのための普通の一個立ちの家が用意されている。ケアとは、単に介護されるだけでもなく、安全な施設に保護されることでもなく、良いベッドと薬を与えられることでもなく、一人ひとりの高齢者が健康な部分、残存能力を最後まで最大限使って、自分の希望する生活を生き生きとおくるための様々な援助である。積極的な社会参加も存在価値の認識を確認させるものである。このケア原則が実践されているからこそ、寝たきり高齢者が作られないのである。

スウェーデンのナーシングホームや老人ホームでは、高齢者は起きたい時に起きる。朝食はしたい時間に、ベッドでとりたい人はベッドで、食堂でとりたい人は食堂でそれぞれとることができる。朝食が終わると、介助のいる人は介助を受けて、洗面をし寝巻を昼間の洋服(もちろん私服である)に着替え髪をとき顔を整える。そして家からもってきた、馴染みの深い椅子に、腰掛けてラジオを聴いたり、歩行用具に助けてもらって居間にでかけていき誰かとおしゃべりを交わす。体の不自由な人でも、かな

 

 

 

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