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表2-8に、移動前の医療サービス利用の状況別にみた移動後の医療サービス利用の状況を示した。移動前に医療サービスを利用していなかった者に関しては、市内転居者で移動後も利用していない者の割合が若干小さかった。移動前に外来医療のみを利用していた者に関しては、転入者、転出者で移動後に利用していない者の割合が若干大きく、市内転居者で移動後も外来医療のみを利用している者の割合が若干大きかった。移動前に入院していた者に関しては、転入者、転出者で利用していない者の割合が大きく、市内転居者で移動後に外来医療のみを利用している者の割合が若干大きかった。これは、市内転居者は他の者と比較して、退院を機に居住地を移動している者が多いことを示している。

表2-9に、移動前と移動後の医療サービス利用について、「なし」を0点、「あり」を1点として、移動前後の間の順位相関係数を者別に示した。これは移動前後で医療サービスの利用状況が変化していないか、つまり移動前に利用していた者は移動後にも利用しているか、あるいは移動前に利用していなかった者は移動後にも利用していないか、の程度を表す指標である。医療サービス(入院と外来を含む)の利用に関しては、転出者、転入者は市内転居者と比較して順位相関係数が低く、医療サービス利用の状況が移動前後で変化していることが示された。この結果は、他の自治体への居住移動が医療サービスへのアクセスを阻害する要因となっていることを示唆している。つまり他の自治体へ居住移動した者は、移動前に利用していた医療機関を利用することは物理的に困難になったこと、移動先の地域の医療機関に関する情報が不足していることなどにより、どの医療機関を利用すればよいのかわからない状態になっていると考えられる。それに対して、同じ自治体内で居住地を移動した者、つまり市内転居者は市内の医療機関の状況を把握しており、また移動前に利用していた医療機関を利用することは物理的にも可能であるため、医療機関への受診が比較的容易であると考えられる。

入院サービスの利用に関しては、転出者は他の者と比較して順位相関係数が高く、入院サービス利用の状況が移動前後で変化していないことが示された。医療サービス利用と入院サービス利用の結果から、他の自治体への居住移動は、主に外来サービス、つまり慢性疾患の管理などの定期的な通院や急病に対する治療といったプライマリケアヘのアクセスを阻害していることが示唆された。上述したように、転入者、転出者は地域の医療機関に関する情報が不足しているため、プライマリケアを担当する医療機関を決められない状況にあると考えられる。したがって、他の自治体から居住移動した者に対して地域の医療機関のマップなどの情報を提供することによって、高齢者自らが移動後すみやかにかかりつけ医を決めるように推進していくことが必要であると考えられる。

 

 

 

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