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(3)スウェーデンの工一デル改革(老人障害者福祉医療制度)について
 1992年1月1日から、スウェーデンでは旧制度を全面的に改革した新しい老人障害者福祉医療制度が発足した。これを工一デル(ADEL)改革と呼んでおり、老人障害者福祉医療の経済的な責任を大幅に県から市に移したものである。
 その中で重要なことは、市は老人障害者に対し「それを必要としている人には適切な住居を用意する義務を負う」というものがある。適切で良好な住居を提供することが、スウェーデンの老人障害者福祉の一番の基礎となっている。これは、病院で治療は終えたものの、退院後に在宅で暮らすことは不可能な人や老齢や障害によって在宅が無理になってきた人に<特別な住居>を用意することなどを指している。
 <特別な住居>とはナーシングホーム、老人ホーム、サービスハウス、グループホームなどの施設をいう。(表−2)
 市はこのような施設内の住居を勧める時は、個人の意志(希望)を尊重し、人間の尊厳を大切にする環境づくりを義務付けられている。例えば、施設は基本的に個室であり、私物の持ち込みも自由となっている。さらに、市は、<特別な住居>を必要とする老人障害者の退院時にその用意ができず、老人障害者が退院できないと、その入院費を支払う義務も負う。
 このような工一デル改革がなされた背景には、二つの大きな理由がある。その一つは高齢化である。特に80歳以上の超高齢者が大幅に増加すると予測されていて、西暦2000年には国民総人口の18%、2005年には20%にも達するといわれている。超高齢者の増加に従って、病気や高齢疾患が多くなり、ひいてはその医療責任は莫大なものになり、そのための対策が急がれてきた。ちなみにスウェーデンの全医療費の中に占める老人のための医療費は、1970年の40%から1990年の60%に増加しており、この数字はますます上昇すると予測されている。
 もう一つは以前、県と市が行う老人障害者の医療と福祉の責任の境界をはっきりさせようとのことからである。工一デル改革以降は、老人障害者の福祉医療の経済的な責任を市が単独で負うことになった。県は、保健、病気の診察や治療など、医療関係の全面的な責任を持っており、国民に平等な保健医療を与えるのが責務である。


表−2 特別な住居施設

 

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