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(2)情報の管理責任
 福祉の分野ではとりわけ個人情報保護が大きな問題となり易い。福祉サービスを受ける側にいわゆるスティグマ(社会的恥辱感)を生じさせやすいため、個人情報をオープンにすることが問題になり易い。そのため、個人情報を管理する行政としては、持っている情報がサービス提供に必要不可欠な情報であっても自らが責任を取れない相手、例えば民間のサービス提供事業者などに対して情報を公開することに慎重にならざるをえないのが現状である。また、信頼できる相手に提供した情報が、その提供方法によっては漏洩する危険性がある場合も慎重にならざるをえないという事情も想定される。
 このようなことが背景にあって「個人情報保護条例の制定」、「オンライン接続禁止」といった地方公共団体の対応となって現れているということが出来る。

 しかしながら、「在宅介護サービス」の提供にあたっては、サービス提供事業者の参加は避けてとおることは出来ず、今後の潮流としても無視できない流れといえる。そのため、「個人情報を行政が管理する」、そして「管理責任は行政にある」との従来の考え方を変えることを検討する必要がある。例えば個人の情報は「個人が責任を持つ」ことで、行政は個人が公開を認めた内容のみを同じく公開を許可した機関へのみ提供する役割へと見直す方法が挙げられる。当然、自分の情報が正当に扱われているかをチェックするのは、個人が責任を持って行うことになる。なお、この場合でも人権擁護機関の設置、オンブズマンの導入、司法関係者らとの協力など個人で責任を持てない弱者への考慮を行う必要がある。

 個人情報はあくまで個人のものであり、それを誰に提供するかの判断も個人が持つというのが本来の姿であって、それが実現できるような情報システムが”良い”情報システムであるということが出来る。それには、ICカードなどを利用したシステムが一つの例といえる。
 もう一つ個人情報保護という観点から問題となると考えられるのがネットワーク上の秘密漏洩問題である。これは、ネットワークの管理責任をどこが負うのかという点に関連する問題である。これまでの章で議論、提案してきたシステムにおいては、システム管理の主体を明示的には示してこなかったが、前項でも述べたとおり、本来的には行政が社会的ネットワークの管理責任主体となることがその役割からしても妥当ではないかと考える。

 以上の考え方からいうと、個人情報保護という点については、情報そのものの管理責任は個人が、情報交換過程における漏洩問題についてはネットワーク管理責任者として行政が負うという考え方が一つの結論になると思われる。
 しかしながら、これはあくまでも一つの考え方であり、各地域の特性、実情に即して、また、長期的展望のもとに、この問題は個別対応していくべきであると考える。特に個人に管理責任能力の無い場合の仕組みをいかに構築するかが市町村の責務である。

 

 

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