日本財団 図書館


(1)情報公開
 高齢者介護の分野における市民の意識の成熟化という傾向の一例は、例えば、市民自らケアプランを作成しようとの動きが出てきていることや福祉施設にオンブズマンを導入する事例が出現してきていることである。このことは、ケアプラン作成を始めとした「狭義のケアマネジメント」に対する市民レベルでの基盤ができ上がりつつあることを表わしており、介護保険制度施行後においてもこの動きは地道な活動の中に取り込まれていくものと予想される。このような動きに対して、地方公共団体としては積極的に情報提供を通じて支援していく必要が出てくるといえる。
 その際、行政の持つ情報をどこまで公開していくのか、またその基準はどんなものを想定するのか、その際の行政の責任はどこまでなのか、といった点が課題として顕在化してくる。すなわち情報公開の在り方という行政としての大きな課題に対する解決を迫られることにもつながっていく。それは、情報公開に関する法制度が現状では未整備であり、その確立が求められているともいえよう。
 根本的な問題として個人情報保護という点に関する議論が重要になるが、「在宅介護サービスの提供を支援する情報」という観点からすると、例えば事業者の情報をどんな方法で、どこまで収集できるのか、収集した情報をどこまでどんな方法で公開するのか、それが事業者にとって不利益にならない方法とするにはどうすればよいのか、事業者と個人の利益が相反する場合、行政としてはどういう立場をとるべきなのかといった様々な検討事項が出てくるものと想定される。
 原則論からすれば、行政としては、客観的立場から市民、利用者にとってメリットのあるサービス提供が行われ、それが事業者のサービス提供事業の改善に繋がるような仕組みを作ると同時に、その目的が遂行されるよう監視、指導するのが本来の役割ということができる。
 したがって、行政としては、自らの情報公開基準を明確にすると同時に、福祉にかかわる関係者が積極的に自らの持つ情報(例えば、サービス内容や施設や要員の体制、空き情報等)を公開し、そのことによって自らもメリットのある行動が取れるような仕組みを作り、その仕組みがうまく動くための関係者に対するインセンティブを工夫することが役割となる。
 現実的には、関係者が共通の土台に立ってお互いの考え方を理解しあう場を設けることから始めることが大切であろう。一部の地方公共団体では、介護保険におけるサービス提供方法について、行政の代表者である保健婦、ヘルパーと民間介護サービス事業者、民間の医師が協議しつつ進めている例もみられる。
 地方行政が官民の垣根、あるいは行政機関内における縦割りの垣根を取り払い、成熟化しつつある市民の自己責任原則に基づく行動を促進し、市場原理に基づくサービス提供が行われるよう自ら情報公開を行うことによって範を示すとともに、市場関係者が進んで情報公開するように誘導するコーディネーター役を果たすことが求められているといえる。




注)Non Profit Organizationの略。民間非営利団体。営利の追求を第一の目的とはせずに、あるミッション(使命、目標)のもとに社会的な事業を展開する団体をいう。数多くのボランティア、NGO(非政府組織)が必ずしも法人格をもたず、財政的に不安定で、人材にも恵まれているとはいえない状態であることから、これを改善し、日本でもアメリカなどのように市民活動を活発化させるような土壌の育成を図ることを目的として、NPO法(特定非営利活動促進法)が施行された。
特定非営利活動促進法:ボランティア活動等の支援を目的とし、非営利活動組織の法人化を実現する法律。NPO法とも呼ばれる。1998年3月に成立し、同年12月施行。

 

 

前ページ    目次へ    次ページ






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION