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(2)福祉サービスの地域間格差
民間のサービス事業者の参入により、サービスを受けている要介護者の情報(日常生活の状態や日頃の相談内容等)を、保健婦や民生委員などが、随時把握できない事態が発生することが予想される。
 このことは、地方公共団体側で市町村独自の福祉サービスと介護保険によるサービスを総合的にケアマネジメントする機能が発揮できないことを意味する。
 地方公共団体によっては、
?@地域住民に対して適切な福祉サービスを提供する環境を整備できるところと、整備できないところが発生する。
?Aヘルパーや保健婦が要介護者の状態を適時把握することができず、介護状態が重度になる前に、適切な処置を行うことが難しくなる。
 という問題点が想定される。

 これは、各地方公共団体における福祉サービスの「量」と「質」に格差が生まれることになり、地域住民は、居住する地域の福祉政策と近隣の地方公共団体の福祉政策を、比較・評価をすることにつながる。
 従来、福祉政策では、地方公共団体が地域住民のケアマネジメントを充実させるために、地域住民、特に措置制度のサービスを受けている要介護者の状況を把握し、適切なアドバイス等の支援を行うことが求められてきた。
 そのため、地域を担当する保健婦や民生委員は、在宅介護支援センターや担当のホームヘルパー等から、サービス受給者の情報を得て、定期訪問時にアドバイスを行う際の参考としていた。
 介護保険制度の施行により、今後、地方公共団体がどこまで地域住民のケアマネジメントを行う必要があるかは、その地域の特性に委ねられることになる。
 福祉政策に基づいた方針を地域住民に明確にし、
・どこまでが地方公共団体の役割か
・地方公共団体が支援しない部分についてはどこが責任をもって行うか
・情報はどこで入手可能なのか
 等、十分な説明を行うことが必要となる。
(3)サービス提供内容の質の格差
 民間のサービス事業者の参入により、サービス提供内容の質が、事業者によって格差が生じる可能性がある。
 サービス事業者がシルバービジネスの中で、企業として成功するためには、必然的に、合理的なサービス提供の方法を実施することになる。合理的なサービス提供が、利用者の獲得競争によるサービスの質の向上につながればよいが、場合によっては、サービスの質の低下につながることも予想される。
 従来の措置制度のサービスの場合は、地方公共団体から委託された在宅介護支援センターや社会福祉協議会(以下、「社協」と略す。)が、地方公共団体のサービス管理のもと、サービスを提供していたため、何らかのサービス品質の低下があった場合は、地方公共団体が指導することができた。
 しかし、介護保険制度では、あくまで要介護認定者が個人の責任のもとに、独自の判断で、サービス事業者を選定する制度である。
 そのため、地方公共団体としては、事前に、サービス事業者のサービス提供内容の評価に基づいて、サービス事業者への指導(依頼)を行うとともに、地域の住民に対して、公平で適切なサービスを受けられるように、各種の情報を提供する必要がある。
 また、サービス利用者に対するケアマネジメントを、どこがどの範囲まで行うか、地方公共団体として明確にしておく必要がある。

(4)保健婦や相談窓口業務の負荷増加
 サービス内容の善し悪しの判断は、利用する住民ごとに異なる。そのため、サービス提供内容に対するサービス利用者からの相談や不満(クレーム)の件数も増加することが予想され、地方公共団体の福祉相談窓口や訪問指導の保健婦等に、これまで以上に負荷が集中する可能性がある。

 

 

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