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3.システムの在り方
 すでに指摘したように、在宅福祉の促進と介護保険制度の導入は、地域住民の個別福祉プログラムヘの地方公共団体の高度な対応を余儀なくし、市町村主体でありながら国・都道府県・民間団体の関与などをもたらした。福祉の「ヒト、モノ、カネ、ジョウホウ」の多元化と交錯が明らかな今も、やはり地域の信頼できる福祉情報を所有するのは地方公共団体であろう。その情報の整理活用が地方公共団体の運営と地域住民の幸福に大きな意味をもつことになる。
 地域福祉行政支援情報システムは、住民情報を集めて行政側が使うのではなく、行政の持つ多くの情報を地域に提供することが今後の課題である。「措置」から「選択」する福祉へと替わるこれから、住民にとっても情報は命である。地方公共団体のシステムは「発信する地域福祉情報センター」として役割を担うことになる。
 次に、「踏み絵」でも指摘したように、これからの公的福祉はマンパワー供給による在宅での日々の暮らしに直結するサービスを地方公共団体単位で運営することになる。正確で迅速な福祉情報の伝達はエネルギー、食料、医療、防災等々と同様に地域社会のライフラインとなる。福祉情報システムは単なる行政事務処理システムではなく通信システム」として、さらに「社会的ネットワーク・システム」としての機能を充実させなければならない。
 日本においてはケアマネジメントにおけるスーパーバイザー機能も地方公共団体の福祉システムが担うことも多くなるだろう。介護保険あるいは福祉サービス全体の中立的評価機関、第三者機関が成立したとしても、その機能に付随するデータベースは公的資料の供給源である。公的介護保険の保険者である場合、保険者=事業者である場合などの立場に応じて初めは福祉データベースを作成するとしても、サービスの需給バランスや質量両面からの評価データは地方公共団体にとって必須のはずである。現時点で福祉と情報部門の地方公共団体担当者に問えば「量の評価はできるが質の評価はできない」というだろう。個別の質的評価は受給者にできても地域全体の評価は当面地方公共団体以外には不可能である。介護保険スタート後にスーパーバイザーとしてのデータベース化と情報管理を各地方公共団体が議論する必要がある。
 もっぱら在宅福祉に目が向けられ、可能な住民は自宅で生活することになる。しかしその分、福祉施設には超高齢・重度重複障害を持つ人が入所することになる。施設の専門性は一層高度化しなければならない。地域の福祉施設による「福祉センター」機能から蓄積される様々なデータやノウハウは在宅福祉に大いに役立つはずである。在宅と施設の二つの福祉をつなぐネットワーク基盤を地域内、地域間で構築していくことも地域福祉システムの重要な側面であると考える。

4.まとめ
 介護保険事務処理システムが先行しなければならないとしても、それにとらわれてシステムの在り方を見失わないよう地方公共団体の福祉部門、情報部門には留意が必要である。行政の歴史をみても事務処理はあくまでも地域福祉行政情報化の第一段階である。段階的にシステム化を検討するならば、ケース処遇、ケアプラン、ケアマネジメントの記録のデータベース化より、通信連絡システムや社会資源所在情報サービス、スケジューリング・システムなどを先行させたほうが運用効果は大きい。介護計画よりも介護実施状況・実施記録を優先的にシステム化したほうが現場、事務方ともに有効活用ができるだろう。
 段階を追ったシステムづくりの目標は障害者福祉計画・高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画を統合した真の意味での「地域総合福祉計画」の運用を支援するシステムである。その在り方や全体像はきわめて地域固有の問題でもあり本報告書の意図と離れるので省略する。しかし、これを見据えた地域福祉行政支援情報システムの在り方を、現在とこれからのシステム構築過程の中で、情報部門が「シーズ」として庁内外に提案していくこともまた必要である。

 

 

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