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(2)情報公開と合意形成のための情報活用
 プライバシー保護問題とは対照的に、地方公共団体側のもつ行政情報については、「踏み絵?D(住民と首長の意思決定への貢献)」を目的とした情報公開と住民との意思疎通を進める必要があろう。
 高齢者保健福祉計画、障害者福祉計画、介護保険実施計画等々の各種計画を、多くの地方公共団体はこれまで行政主導で策定・実施・評価してきた。主導であったがために住民とのコミュニケーション不足が原因となってコンセンサスを得られなかったり、事業の内容や意図が周知徹底できなかったということも否めない。
 しかし、ファクシミリ網やインターネットなどの通信連絡網の普及が、低コストで行政と住民のコミュニケーションを実現する環境がすでにできあがっている。ある地方公共団体では地域情報化によるコンピュータ・ネットワーク基盤の上にインターネット・メール・システムを活用して、新規事業の計画立案段階から多数の市民と意見を充分に交わして合意形成を行う手法を用いた実例がある。情報公開が文書や統計資料の公開だけを意味するのではなく、行政側の住民とのコミュニケーション促進という視点から捉らえ、何が住民にとっての「情報」なのかをもっと広く考えるべきである。
 次に文書や統計資料の公開方法について言えば、これまでの広報紙などの情報に代表されるような「集約された」、「簡略化された」、「加工された」資料だけでなく、「データベース的」、「データベース化された」データあるいは「生データそのもの」の公開も重要となるであろう。前者のタイプの資料は自ずと集約・加工段階で制作者である行政側の意思や意図に基づいて取捨選択された情報となる。しかし「踏み絵?D」を尊重するならば、データの加工は住民側の手で行い、自らの意思決定にふさわしい判断材料を作り上げる機会がなければならない。「操作されていないデータ」の提供はこれまで物理的にも困難であったが、やはりコンピュータ・システムとネットワーク・システムの普及によりその困難さは大いに減少した。「このまちの福祉をどうするか」、計画立案段階からの住民対話への姿勢は特に福祉行政では大きなプラスになるはずである。
 ここで問題なのは「従来の情報弱者」と「新たなる情報弱者」の発生である。前者は従来から指摘されている高齢者、障害者などの福祉サービス受給者の中に「情報化」の恩恵が得られていない、またそれが人権問題にかかわることとして指摘されてきた問題である。後者は、前者に加えて、または後者とは別のグループの、情報リテラシーを持たない住民の不利益である。
 この問題は通信メディア自体やインターフェースの開発・改良などにより漸減的に不利益者を減らすしか方法がないように思われる。新たな弱者を生むということを理由に情報公開と意思疎通のための情報化を進めないのは戒めるべきであろう。

 

 

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