第1節 福祉行政を取り巻く環境の変化
福祉行政を取り巻く環境の変化の中で最も重要な社会的変化は、少子・高齢化の急進展に伴う高齢社会の現出であり、これに伴い社会構造も変化が予想され、福祉行政の在り方にも大きな影響を与えることが想定される。
- 1-1 21世紀に向けての福祉分野の潮流
- 1980年代の後半以降、「21世紀福祉ビジョン」注1)の策定を始め、人口構造の変化に伴う少子・高齢化社会の到来に対応すべく、様々な制度改革が行われてきている。1989年(平成元年)のゴールドプランの策定注2)、1990年(平成2年)の福祉八法の改正注3)などがそれであり、そのベースとなっている考え方は、前述した社会構造の変化の方向を踏まえた、
- ?@市町村を基礎単位とした在宅福祉中心の地域福祉の推進
- ?A社会福祉法人、民間事業者を含めた福祉サービス提供主体の多元化
- ?B市場原理の導入と自己責任原則の拡大
- であるといえる。
1997年(平成9年)12月に立法化され、2000年4月に施行が予定されている介護保険制度は、市町村を保険者とし、民間事業者を含めたサービス事業者を想定し、サービス提供に当たっては契約方式をとるという点からすると、まさにこれらの傾向を先取りする形の制度であるといえる。
したがって、現在準備が進められている介護保険制度の運用システムが、高齢者福祉のみならず21世紀における社会保障全般の在り方に大きな影響を与えるものと想定できる。
また、社会保障は公的機関の担うべき範晴との考え方から、福祉需要に対するサービス提供を措置するという形態によって担ってきた地方公共団体も、経済の転換期に当たり財政難の状況を呈しつつある。さらに社会的入院などによる「医療費の増大」も社会保障の在り方の転換を迎える要因の一つとなっている。これらのことから、社会のセーフティーネットの役割を担う福祉分野についても抜本的改革を迫られているということができる。
こういった状況を想定すると、今後ますます拡大、多様化する福祉需要に対応するためには、これまでの市町村を中心とした市町村単位でのサービス提供ではなく、民間企業、ボランティア団体なども含めた多元的組織による広域的な観点からのサービス提供、すなわち地域福祉の展開が必要とされよう。
その際、この地域福祉システムを構成する主体がそれぞれ担うべき責任は次のとおりになると考えられる。
- ・国(政府)は、市場原理と自己責任原則により不利益を被る可能性のある社会的弱者を救済するセーフティーネットを用意する。
- ・市町村は、福祉サービスが必要とする人々に適切に提供されるように実態を管理監督する。
- ・福祉サービス提供者は、サービス提供にかかわる情報をできる限りオープンにする。
- ・サービス利用者は、自己責任原則に基づきサービス内容及び提供事業者を選択する。
注1)高齢社会福祉ビジョン懇談会の報告書「21世紀福祉ビジョンー少子・高齢社会に向けて」(1994年に報告)。いつでもどこでも受けられる介護サービスと言う観点から、施設・在宅サービスを大幅に改善し、総合プランとしての新しいゴールドプランの策定とその積極的な推進を提言している。
注2)ゴールドプラン=高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略。21世紀の高齢化社会を国民が健康で生きがいをもち安心して生涯を過ごせる社会としていくため、高齢者の保健福祉の分野における公共サービスの基盤整備を図ることを目的としている。その後1994年に「高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略の見直しについて」(新ゴールドブラン)が行われている。
注3)改正の対象となったもの:児童福祉法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、老人福祉法、母子及び寡婦福祉法、老人保健法、社会福祉事業法、社会福祉・医療事業団法。
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