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第1章 福祉分野を取り巻く環境の変化
 福祉分野の情報化を考えるに当たっては、社会福祉の動向とともにその在り方を規定する社会・経済の構造を踏まえることが前提となる。本章は、福祉分野の情報化を考える上で前提となる21世紀の社会福祉の姿を仮説的に展望するものである。

 21世紀を目前にしたここ10年の世の中の動きを見ると、我が国は今大きな転換期を迎えているということができる。すなわち、戦後の経済成長を実現してきた社会・経済システムが行き詰まりを見せる中で、これら既存のシステムに対する市場経済的見地からの批判が高まり、市場原理の導入ないし活性化、分権化の促進、規制緩和、自己責任原則の強化といった処方箋が提示され、今まさにこういつた視点に立った改革に向けての政策論議が行われている状況にあるといえる。
 こうした状況の中で、80年代以来積み重ねられてきた我が国における福祉改革も今や新しい段階を迎え、市場原理の強化と自己責任の拡大にその改革の方向が向けられつつあるとみることができる。上に述べたような社会全体の構造変化がこの底流を成していることは事実であるが、一方で、21世紀の我が国において大きな意味をもつと想定される高齢化の急速な進展が、国家責任と生活権の普遍的保障という考え方のもとに公的責任に基づき行われてきた社会保障政策の財政的な問題を顕在化させ、こういつた志向を生みだしていることに注目する必要がある。
 人口構造の急激な変化と国民の生活スタイルの変化は、経済成長の制約要因となると同時に、社会福祉に対する公的サイドの役割遂行に制約を加えることになることが予想される。このような傾向への対応として、長期的な視点でとらえておくことが必要である。
 したがって、高齢化社会の到来が確実視される中での社会福祉の在り方を考えるに当たっては、市場原理の導入(民活)と自己責任の拡大というキーワードを行動原理とする社会システムを想定しておくことが必要である。ただし留意すべきは、これらの行動原理は本来的には社会福祉の分野にはなじみにくい側面をもつものであるという点である。すなわち、福祉サービスの利用者は、一般の市場における消費者とは異なり、商品あるいはサービスの選択に必要とされる判断能力と自己責任能力を持つ消費者であるとは限らず、大多数は社会的弱者であるという側面である。社会システムとしては、これら社会的弱者を救済する機能をもったシステムとする必要がある。
 また、社会福祉には「貧困・弱者救済」の面もあるが、現在の福祉哲学は「自己実現の機会均等」である(Wel-beingの理念)。これを実現する視点も重要である。

 このような考え方を前提に、21世紀における社会福祉の構造を想定すると次のような特徴が浮かび上がってこよう。
・分権化の進展
集権型の社会構造から分権型の社会構造への変化が予想される。福祉分野でいえば、社会福祉の中心的役割を担う主体として市町村(東京都特別区を含む、以下同じ。)が位置付けられることとなり、地域福祉の進展が予想されるということができる。
・社会資源の配分方式の多元化
社会資源の配分方式、つまり福祉サービスの供給システムの多元化が進むと予想される。福祉サービスの供給チャネルとして、公的福祉供給システム、市場システム、インフォーマルシステムが多重的にかかわりあうシステムとなることが予想される。
・援助提供組織の多様化
福祉サービス供給組織についても、行政組織、公的色彩を帯びた行政の関係団体、民間事業者、それにボランティア団体などが多重的にかかわりあう姿が予想される。

 

 

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